Jibiki Kazuya
地引 和也 特別助教
Profile
出身地/茨城県
好きな食べ物/白米
細胞の中で起こる「核輸送」の実態に分子レベルで迫る。
研究を通して、生命は奇跡的なバランスの上にあると実感できる
私が研究しているのは、真核細胞の「核輸送」という仕組みです。ヒトをはじめとする真核生物は、遺伝情報が記されたDNAが、細胞内の「核」と呼ばれる部屋に収められています。その核と外側の細胞質との間では、さまざまな分子が絶えず出し入れされています。これが「核輸送」です。
核輸送の基本的な仕組みは、これまでの研究でかなり明らかになってきました。しかし、細胞のなかで実際に、どんな分子が、いつ、どこで、どれだけ運ばれているのか——といった実態は、まだ十分にはわかっていません。私は、それら一つひとつを分子レベルで明らかにすることで、細胞の働きを理解したいと考えています。
この研究で注目している分子のひとつが、「importin α」という核輸送因子です。これは、核へタンパク質を運び込む“運び屋”として知られてきましたが、実はそれだけではなく、DNAに直接結合するという新しい働きを持つこともわかってきました。この研究の面白さは、こうした分子の反応が、決まりきった一本道で起きているわけではないということです。実際の分子は教科書通りではなく、確率論的に揺らぎながら動いています。その無数の反応の総和として、私たちの身体が「生き物」として成り立っている——そう考えると、生命はほとんど奇跡的なバランスの上にあると感じます。
核輸送の研究は、将来的にはがんなどの疾患の理解や治療薬の開発につながる可能性もあります。ヒトの「ゲノム」は解読されましたが、生命を理解するためには、わかっていないことが数多く残されています。生命の神秘に挑めることが、この分野の何よりの魅力だと思っています。
「わからなかったことがわかるようになること」に価値がある
理学部では、実験科目である「生物学実験Ⅰ」と「生物学実験Ⅱ」を担当しています。「生物学実験Ⅰ」では、生物学研究の基本的な手技に加えて、植物や動物の構造について学びます。「生物学実験Ⅱ」は複数の教員によるオムニバス形式で、生物学の幅広い分野を、より専門的に学べる構成です。それぞれのテーマが、異なる視点や狙いを持って設計されています。
実験では、初めて経験することも多く、つい目の前の作業をこなすだけで精一杯になりがちです。しかし、「なぜこの実習がこの構成になっているのか」「何を学んでほしいのか」という、背景や狙いまで意識してほしいと思います。それを理解できると、学びの質は大きく変わります。
理学は自然界の仕組みを理解することを目的とした基礎研究の色が強い学問です。私たちは何かを学ぶ時、つい「それが何の役に立つのか」を考えてしまいがちです。しかし、基礎研究では、極端に言えば「わからなかったことがわかるようになること」そのものに、大きな価値があると私は考えています。
理学部で過ごす学生時代は、自分の純粋な知的好奇心に従って問いを追いかけられる、とても贅沢で貴重な時間です。生物学は、複雑でわかっていないことだらけの世界だからこそ、教科書を覚えるだけでなく、自分なりの視点で物事を考えることが大切です。「なぜだろう?」「どうなっているのだろう?」という気持ちを原動力に、未知への挑戦を楽しんでほしいと思います。
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