Iwamoto Akitoshi

岩元 明敏 教授

所属
理学部
理学科(生物コース)
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専門分野

植物形態学、植物生理学

キーワード

Profile

生年/1976年
出身地/札幌
尊敬する人/Dr. Louis Ronse De Craene
愛読書/「Floral Diagrams」 (Cambridge University Press)
趣味/弓道
休日の過ごし方/子供の世話
好きな映画/「恋する惑星」(ウォン・カーウァイ)
好きな音楽/ボサノバ(ジョアン・ジルベルト)

植物形態学の研究は、いわば植物のルールブック作り。未知の法則を見つければ、それが新しいルールになる。

植物がなぜその「形」をしているのかを解き明かす

私の専門分野である「植物形態学」は、その名の通り植物の形を研究する学問です。例えば、チューリップやユリのように最初の葉(子葉)が1枚の植物のグループを単子葉植物といいますが、この花をよく観察してみると、花弁(花被片)と雄蕊が3つずつ組みになって形成されていることがわかるはずです(花弁や雄蕊のように花を構成する各器官のことを花器官といいます)。このように花器官が3つずつつくられている花を「3数性」の花というのですが、私は単子葉植物の花がなぜ3数性になったのかを明らかにするために花発生の研究をしています。花発生とは、まだ花が0.1ミリくらいの細胞のかたまりの段階から、萼片や花弁が発生して花が完全にできあがるまでの過程のことです。そして、この花発生観察結果と、主にDNA配列に基づく分子系統解析の結果(分子系統樹)とを比較することで、花形態の進化を検討し、花の3数性が成立した過程を解き明かそうとしているのです。
私の研究室では、こうした花だけに限らず、枝や根の研究も行っています。例えば、日本紙幣の原料にもなっているミツマタという植物は、その名前の通り、枝の先端が3つに分かれているのが特徴です。この3つに分かれた枝の根元(茎部)には葉がついていませんが、普通の植物では枝に葉がつき、その根元に作られる芽から新しい枝が生えてきます。つまり、葉の形成をともなわないミツマタの枝分かれは非常に特殊であるといえます。私達はこのミツマタの分枝過程を詳細に観察し、先端がほぼ同時に3つに分割されるという分枝様式であることを解明しました。このように植物の枝分かれがどう進化してきたかの解析や、根の成長が、遺伝や環境要因によってどのような影響を受けるかという解析も行い、植物全体にわたる形態の多様性の解明に取り組んでいます。

過去の遺産に新たな研究を積み重ねていくのが植物形態学

19世紀初め頃にゲーテが「形態学」という分野を提唱して以降、100年以上にわたって植物形態学は植物学の中心にありました。しかし20世紀後半から遺伝子解析技術が飛躍的に進歩したことにより、植物学でもいわゆる分子生物学が大きく発展し、中心を占めるようになっています。
私自身が大学院にいた頃も、周囲では分子生物学を研究する人が大多数でした。そのなかで植物形態学を専門に選んだのは、非常に単純で、重要な分野にも関わらず誰もやっていなかったからです。植物形態学というのは基本的に植物の観察の積み重ねによって発展してきた学問なので、「これまでの数百年の蓄積でもう十分なのでは?」という人もいます。しかし、植物形態の世界には今私が研究していることのように、まだ分かっていないこともたくさんあります。私は今では研究する人が少なくなってしまった植物形態学という分野を受け継ぎ、発展させていく人間も必要なのではないかと考えて、この道に進みました。
この分野の目的は、植物の形態の多様性を明らかにすること。それは言いかえると「植物形態の新しいルールを見つけていく」ことです。これまでの知見で説明できない形態を持った植物が見つかれば、そこに新たなルールが加わっていく。植物に限らず生物の形態というのは非常に多様ですから、全てを把握するのは実質的に不可能です。しかし、それでもできる限り完全なルールブックづくりを目指すことが植物形態学を研究する人間としての目標と考えています。そして、過去の研究者たちが積み重ねてきた成果を継承し、そこに新たな知識をひとつずつ積み重ねていくことの充実感。そこにこの学問分野の楽しさがあるように思っています。

ただ「見る」のではなく、知識を持って「観る」ことが大切

私が担当している「基礎植物学」の授業では、主に植物の形態について講義しています。植物学の基礎をみにつける上で大切なのは、絵や写真だけでなく実際の植物を観察することです。私の授業でも、時には野外に出て、実際の植物を観察しながら講義を進め、実物を使った学びを重視しています。
観察する際に大切なのは、植物の構造の基本ルールを頭に入れて「観る」ことです。たとえば先ほど説明したように、植物が枝分かれするときには必ず葉をともなっています。ぜひ皆さんも、植物の枝分かれ部分を注意して見てみてほしいのですが、枝が分岐しているところの根元には必ず葉か、葉の落ちた跡があります。こうした基本ルールを頭に入れたうえで植物を「観る」と、さきほどのミツマタのようにただ「見る」だけでは分からなかった基本ルールに従わない形態を見つけることができます。すると、それが新たな研究の対象になっていくのです。
ただ美しい花を見ることももちろん良いのですが、基本的なルールをふまえて観察することにはまた違った楽しさがあります。それは植物に限らないかもしれません。私の授業や卒業研究などを通じて、目の前の生物をただ「見る」のではなく、知識を持って「観る」ことの面白さ、大切さを身につけてもらえればうれしいと思っています。

生物科学(植物形態学、植物生理学)研究室

被子植物に関する形態学的研究

本研究室では、様々な植物を材料として形態形成全般に関する研究を行っています。また、形態形成の生理学的背景を明らかにするため、定量的解析手法および数理モデルを用いた研究も進めています。具体的には、サクラなどの植物を対象にした植物の分枝様式(シュート構成)の多様性を明らかにする研究やモデル植物であるシロイヌナズナの花を用いた物理的圧力が花形態に及ぼす影響の解析、また同じくシロイヌナズナの根端を用いてゲノム倍数化が器官成長に及ぼす影響の定量解析などを行っています。

Photos

  • 愛読書の「Floral Diagrams」(Cambridge University Press)。著者のDr. Ronse De Craeneが教鞭をとるエジンバラ植物園へ1年間留学して、共同で研究に取り組むことができたのは貴重な経験でした

  • 10年ほど前から使っている植物観察用のルーペ。首にかけるためのストラップはエジンバラ植物園のスタッフ用のものをもらって使っています

  • 播種後2年目で開花するワカキノサクラ。このサクラも研究対象の1つです

SDGsの取組み

地域課題

SDGs・地域課題について

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