Akematsu Takahiko
明松 隆彦 特別助教
Profile
動物や植物とは異なる進化を遂げた単細胞真核生物を題材に、生命の普遍的な真理や多様性に迫る。
素朴な疑問に誘われて実験を重ねてゆくと、思わぬ発見に辿り着く
テトラヒメナやゾウリムシに代表される単細胞の真核生物(繊毛虫類)を題材とし、細胞の機能や遺伝子の働きについて研究しています。繊毛虫類は、動物や植物、菌類などとは進化のかなり早い段階で枝分かれし、たった一つの細胞を駆使して厳しい生存競争を勝ち抜いてきました。その生命システムのなかには、我々ヒトと共通している部分と、まったく異なる独自のメカニズムが複雑に絡み合って存在しています。そうした生物の細胞や遺伝子を調べることで、生物が生きる仕組みの普遍的な真理や多様性の理解につなげたいと考えています。
例えば、テトラヒメナは過去に2度、ノーベル賞に輝いた研究に使用されました。そのひとつが、2009年に受賞した「テロメアとテロメラーゼ」の研究です。染色体の末端にある奇妙なDNA配列としてテトラヒメナから発見されたテロメアは、動物や植物にも共通して存在しており、染色体の安定性に寄与していることが分かりました。テロメアは細胞分裂のたびに徐々に短くなることから、老化の指標の一つとして研究分野で活用されています。また、無限に増殖する癌細胞ではテロメアを伸ばす酵素テロメラーゼが活性化していることから、この働きを抑える抗癌剤の開発研究も進められています。テトラヒメナの細胞には、短く編集された染色体が数万本存在します。他の真核生物には見られないこの特徴が、真核生物の重要な共通性を見出す研究材料として最適だったのです。
素朴な疑問に誘われて実験を重ねていると、思わぬ発見に辿り着くことがあります。しかしそのためには、研究対象となる生物をよく観察し、よく理解しようと努力を続けることが必要です。生命現象の不思議に向き合い、未知を追求することが、研究の面白いところです。
「失敗した」で終わるのではなく、考え続けてほしい
担当している「生物科学実験Ⅱ」では、タンパク質の精製や酵素活性の測定など、生化学的な実験を行います。目的と原理をしっかりと理解した上で実践してもらいますが、仮説通りの結果にならないことがよくあります。実験器具の使い方や試薬の調合、生体試料の扱い方など、微妙なズレの積み重ねが、結果に大きな影響を与えているのかもしれません。学生には、実験に失敗した際にただ「失敗した」で終わるのではなく、そこから何を改善する必要があるのかをじっくり考える経験を積んでほしいと思っています。併せて、自分の実験結果を人に伝え、他者と協働しながら技術を磨いていく力も身につけてもらいたいです。そうした試行錯誤の経験は、将来どのような分野に進んでも役立つはずです。
一般に大学では、各科目1学期あたり15回しか授業がありません。その中から得られる情報量は限られているので、自ら調べて理解しようとする姿勢が求められます。授業はあくまでも能動的な学修のきっかけに過ぎないので、そこから自分の興味のある勉強や研究に専念する時間を作ってほしいと思います。それは大学生に許された、とても貴重で贅沢な時間です。大学生活を無駄にせず、大きく成長するための努力を惜しまないでください。
生物科学(細胞生物学、構造生物学)研究室
細胞内の骨組み構造から生命現象の神秘を探る
細胞は「生命の基本単位」と呼ばれますが、挿絵ではより小さな構造物を含む「袋」にすぎません。ここでどのように生命現象が生まれるのでしょう? 実は細胞内には、これらの小さな構造物や目に見えない物質を動かし、配置し、出合わせ、引き離す役割を担う骨組みが存在するのです。この骨組み構造の働きにより、生命現象のもととなる様々な化学反応が適切な場所とタイミングで起こると考えられています。 当研究室では微小管という骨組み構造を調べています。微小管の部品となる蛋白質(模式図参照)を詳しく調べ、いつか試験管内で生命現象を再現するのが夢です。大自然が作り出した細胞という小さな神秘に、一人でも多くの学生が好奇心を抱いてくれることを願っています。
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