Ayumi Takahashi
髙橋 歩美 特別助教
Profile
出身地/東京都
子供の頃の夢/天文学者
尊敬する人/諫山 創
愛読書/進撃の巨人、星を継ぐ者、小川糸さんの小説
趣味/お酒
休日の過ごし方/料理、散歩、読書、描画
好きな音楽/ハードロックからクラシックまでいろいろ
好きなTV番組/ひっかかりニーチェ
好きな映画/Julie & Julia、The notebook、エイリアン/プレデターシリーズ
好きな著名人/コロコロチキチキペッパーズ ナダル
好きな食べ物/唐揚げ、ハモンセラーノ、柚子胡椒、桃
「130億年前の光」を読み解き、宇宙の歴史を紐解く
遠い宇宙の「ともしび」を手がかりに、ブラックホールと銀河が共に育つ理由を探る
私が研究しているのは、銀河の中心にある超巨大ブラックホールがどのように成長し、周囲の銀河とどのような関係を結んできたのかを明らかにすることです。宇宙は約138億年前に誕生しましたが、私たちが見ている遠方宇宙の光は、数十億〜百億年以上前の過去の姿をそのまま伝えてくれます。なかでも「クエーサー」と呼ばれる天体は、宇宙で最も明るい天体のひとつで、遠く離れた場所にあっても「ともしび」のように観測することができます。その明るさを頼りに、私たちは宇宙のブラックホールや銀河の情報を読み解こうとしています。
興味深いのは、ブラックホールとそれを宿す銀河が「ほぼ同じペースで成長している」ように見えることです。銀河は星の集合体で、その質量は暗黒物質や星の数で決まります。一方ブラックホールは、銀河と比べると空間スケールで10億倍ほど小さく、この比がちょうど「地球と石ころ」ほどの違いに相当します。両者は宇宙の長い時間を通じて強い相関関係を保ち続けていることがさまざまな観測的研究により示されていますが、この物理背景は今も完全には説明されていません。
その謎を解く鍵として考えられているのが、ブラックホールから吹き出す高速の風「AGNアウトフロー」です。ブラックホールに落ち込むガスが回転する際、莫大なエネルギーが放出され、銀河規模にまで広がる強い風を吹かせることがあります。この風が、銀河内部のガスを押し出したり、星が生まれる材料を吹き飛ばしたりすることで、ブラックホールと銀河が互いに影響しあい、成長を調整しているのではないかと考えられています。
アウトフローの性質や頻度は、「分光観測」によって調べることができます。アウトフローがあると、クエーサーのスペクトルに特有の吸収線が現れます。そのパターンを統計的に解析し、どれほどの割合のクエーサーが強い風を持っているのか、宇宙の時代によってその傾向に変化があるのかを調べることで、ブラックホールと銀河が「共進化」してきた歴史を追いかけています。
ただし、この共進化を完璧に説明する理論はまだありません。ブラックホールと銀河の質量相関がどのように生まれ、なぜ宇宙のあらゆる時代で同じように見られるのか。その因果関係を明確にするには、さらに多くの観測データが必要です。そのため私は、遠方宇宙を照らすクエーサーを「自然が与えてくれた観測装置」として活用しながら、宇宙の情報をこれからも丹念に拾い続けたいと考えています。
ブラックホールというと「何でも飲み込む存在」というイメージを持つ人も多いかもしれません。しかし実際には、宇宙最大級のエネルギーを放つ、きわめてダイナミックな天体です。そのエネルギーが銀河に与える影響を丁寧に読み解いていくことで、宇宙がどのように姿を変え、今の私たちがいる銀河へとつながってきたのか──その壮大な歴史の物語を明らかにすることができるのです。
「わかる」につながる物理学の授業づくり
講義は、1年生向けの「基礎物理学実験」、3年生向けの「物理学基礎実験」、そして天文学分野を担当しています。学生が手元の作業に追われて内容とのつながりを見失わないよう、「なぜこの実験・講義を行うのか」「今日の目標」「何が身につくか」「どんな技術に応用されているか」などを冒頭で示すようにしています。
基礎物理学実験では、小型コンピュータ「Arduino(アルデュイーノ)」を使って、簡単な電子回路を自分で組み、LEDを光らせたり、スピーカーを鳴らしたりします。自作のプログラムで装置が反応する瞬間は、物理が「机上の概念」から「手触りのある体験」に変わる大切な瞬間です。ここでは、計測の基礎、信号処理の初歩、A/D変換の考え方など、後々の学びにつながる基礎を身につけていきます。
物理学基礎実験(主に3年生対象)では、高校物理でも扱う実験を通じて「光が粒子であり波でもある」という性質を確かめます。教科書で知識として学ぶだけではなく、自分の手で現象を「見る」ことで、理解が一段深まるのです。
1〜4年生まで受講できる天文学関連の講義では、天の川銀河や近傍銀河の基礎から始まり、私の専門である活動銀河核(AGN)──超巨大ブラックホールを中心に据えた講義を行います。ここでは、「宇宙を理解するための物語の流れ」を大切にしています。
授業運営で特に意識しているのは、「学生の反応を見ながら、迷子にさせないこと」です。毎回の授業後にはフィードバックをもらい、伝わっていない部分があれば次の授業で補足します。私が目指すのは、学生が「ただ教わる」のではなく、手を動かしながら「わかる」を積み重ねていく授業です。物理は抽象的に見えますが、装置が動き、光が干渉し、データが形になる瞬間に、「この現象はこういう仕組みだったのか」という実感が生まれます。その体験を通じて、学生の中に科学への興味が育っていくことを願っています。
また、授業と実社会のつながりも意識しています。たとえば天体観測で使われるCCD(光を電気信号に変えるデバイス)は、実はスマートフォンのカメラにも使われています。観測装置の解析で扱う信号処理の考え方も、さまざまな工学分野で応用されています。宇宙という壮大なテーマは、遠い世界の話に聞こえがちですが、実際には日常の技術とも深く結びついているのです。
急がなくていい。まず手を動かして遊び、考えることを楽しんで
学生の皆さんには、すぐに答えを求めず、考える過程そのものを楽しめるようになってほしいと願います。
物理や天文学の研究では、プログラムがエラーを出したり、計算が合わなかったり、思い通りにいかないことがたくさんあります。それでも手を動かし、修正し、ようやく問題の原因にたどり着く。ゲームを攻略するようなその過程が研究の楽しさでもあります。
学生には、「成果を焦らず、まずは手を動かして遊ぶこと」の大切さを伝えたいと思っています。データを眺めてみる、ソフトを書き換えてみる、うまくいかなくても自分の力で原因を探ってみる──そうした時間は、実は研究を進めるうえでとても重要です。私自身も学生の頃、重力レンズ現象のレポート課題に取り組む中で、研究の誤りに気づき、自分で式を組み立て直した経験があります。当時は夢中で、寝食を忘れながら取り組んでいましたが、振り返ればその時間が今の自分を形作ったと思います。自分の興味に触れ、手を動かし、考えてみる。「これが好きだ」と思えた対象に、寝る間も惜しんで没頭する──そんな経験がきっと財産になります。
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