Zushi Mihoko
辻子 美保子 教授
Profile
教授理論言語学人間が生得的に持っている言語能力の本質を研究することを通して、人間のこころ(human mind)のメカニズムを突き止めたいと思っています。特に、人間言語の仕組みに関する普遍性と多様性を研究しています。
出身地/神奈川県
家族構成/夫と二人
尊敬する人/ノーム・チョムスキー
愛読書/加藤周一、堀辰雄、立原道造の作品
趣味/美術館巡り(特に、印象派からその範囲を広くとったエコール・ド・パリくらいまでの作品が好み。ルネッサンス期の作品にも興味有り。最近は琳派に注目。いずれも美術史に革命をもたらしたと言えます。)
休日の過ごし方/仕事と家事
好きな音楽/クラシック(特に、チェロ)、ジャズ(特に、ビル・エヴァンス)、正やん(伊勢正三)
好きな著名人/チェ・ゲバラ
好きな国/Imagine there's no countries(ジョン・レノンの"Imagine"より)
私たちが本能として持っている言語能力から「人間のこころ」を理解していこう。
言語の本質は「コミュニケーションの手段」ではありません
私が担当しているのは共通教養科目の「言語学I・II」です。授業では、言語が持つ音や意味の仕組み、音と意味を結びつける統辞法(狭義の文法)の仕組みといった言語の中核的システムを学んだのち、言語の獲得や使用、言語の脳科学、言語能力の進化といった言語学と関連領域に関わる諸問題を学びます。言語を考察することを通して、人間のこころ(human mind)を理解することを目指しています。
初回の授業ではまず「言語学は言語を研究する学問ですが、『言語』とはどのようなものだと思いますか」という質問をします。学生たちの答えで一番多いのは「言語はコミュニケーションの手段」というものです。しかしよく考えてみてください。人間同士のコミュニケーションが言語を介してなされることが多いのは事実ですが、それが言語のみによってなされるわけではありませんし、誰とも話さなくても人間は常に頭の中で言語を使ってものを考えています。また、人間以外の動物もコミュニケーションの手段を持っていますが、「言語」を持っているとは言えません。例えばミツバチのダンスや鳥のさえずりは複雑なコミュニケーション・システムですが、人間言語のように記号を組み合わせて表現を無限に作り出したり、全く新たな表現を産み出すことはできません。この考え方では、なぜ人間しか言語を持たないのかという問いへの答えを得ることはできないのです。授業では、言語の本質がコミュニケーションの手段というところにはないことをいろいろな角度から検証していきます。
私たちにとって「言語」はあまりにも身近なものなので、普段「言語とは何か」という問いを深く考えることはありません。しかし、この単純な問いは実のところ相当な難問なのです。現代言語学では「言語」を、「音と意味を抽象的な構造を介して結びつける人間に固有の能力である」と定義します。この言語観に基づき、言語の獲得や使用を可能にする「言語能力」とはどのようなものかを考えていくのが言語学という学問です。
研究テーマは、言語が持つ普遍性 - 普遍文法
私たちは無意識のうちに言語(第1言語)を獲得することができます。自分で学習するわけでもなく、誰かから教えてもらうわけでもないのに、誰でも自然と言語を話せるようになります。そのことを不思議に思っていたのですが、「人間は言語能力(言語獲得装置)を生まれつき持っている」という考え方を学生時代に知り、ああ、だからみんな言葉が話せるんだ!と目が開かれました。これが言語学を学ぼうと思ったきっかけで、いまもその「すべての人間が生物学的特性として持つ言語能力」が一体どのようなものなのかを追究することが、研究テーマの1つです。
私たちがある言語表現を口に出すときには、順番に並んだ語を1つ1つ発話しますが、その背後には階層的な構造が存在しています。その構造に基づいてその表現の意味が構成されるのです。例えば「新しい言語学の教科書」という表現を考えてみましょう。この表現は2通りの解釈があり、①「新しい言語学に関する教科書」と②「新しく出た言語学の教科書」を持ちます。なぜ2つの解釈があるかというと、2つの異なる構造があるからです。[[新しい 言語学]の教科書]という構造からは①の意味が、[新しい[言語学の教科書]]という構造からは②の意味が生じます。この単純な例からも、言語表現が「階層構造」を持つことが分かります。人間言語には語と語を結び付けて階層構造を作ることや構造同士を結び付けることなどに関する普遍的な計算システムがあり、私はこうした言語の計算における普遍性について研究しています。
また、言語能力の生物学的基盤に関して、神経科学者との共同研究も行なっています。言語の統辞法については、左脳の言語野が司っていることは分かっていますが、より詳細な文法中枢の働きや神経回路のメカニズムなどの研究を行なっています。
文系/理系の型にはまらず、自由に勉強をしよう
言語学は、一般的に文系の学問と考えられていますが、実は、自然科学として脳内にある言語能力を研究するというアプローチをとっています。そのためにいろいろな学問分野の「総合力」が必要とされる分野です。さまざまな言語現象に関して、「なぜ」そうなっているのかという問いへの答えを抽象的な原理から導き出すという方法論をとり、その説明には自然法則のような単純性や最適性といった性質が求められます。
私は附属高校から受験を経ずに進学したため、文系・理系に分類されることなく、数学や物理学も含めて幅広く勉強できたことが、その後の学問に対する姿勢に生きているように思います。現在の大学制度では、文系・理系に分類されてしまうのは仕方のないことかもしれませんが、十代の頃からこのように二分されて、その後の進路まで方向づけられてしまうのは、多くの可能性を潰してしまうような気がします。大学での勉強は、○○系といった型に自らを無理やりはめ込むのではなく、もっと自由でいいと思います。個性や創造力といったものは、そういう自由なところから生まれてくるはずですから。
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