Otawa Masae

大多和 雅絵 助教

所属
人間科学部
人間科学科
関連リンク
専門分野

教育学、戦後教育史、教育制度

キーワード

Profile

子供の頃の夢/「がっこうのせんせい」(幼稚園卒園の時)
愛読書/大村はま『教えるということ』、大田堯『教育とは何かを問いつづけて』
趣味/音楽鑑賞、読書
好きな映画/『美女と野獣』、『ハリー・ポッター』シリーズ、『ファンタスティック・ビースト』シリーズなど
好きな食べ物/シーフード系

公教育制度の縁辺領域から教育の問題を照らし出す。

学びの機会を求める人々と 夜間中学校の歩み

皆さんは「夜間中学校」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか? 夜間中学校は、さまざまな理由で義務教育を十分に受けられなかった人のための教育機関です。年齢や国籍を問わず通うことができ、すべての課程を修了すれば中学校の卒業資格を得ることが可能です。私は戦後教育史を専門とし、公教育における教育機会や教育の保障の問題をテーマとし、これまでこの夜間中学校に着目して歴史的にアプローチしてきました。

夜間中学校のルーツは戦後の混乱期にあります。当時、本来であれば中学校に通う年齢の子どもたちが、働かなくてはならない、家族の面倒をみなくてはならないといった事情で教育を受けられない状況に置かれていました。そこで、教員たちが自発的に学びの場を提供する“草の根”の活動として夜間中学校が始まりました。しかし時代とともに、学齢を超過した人や引揚・帰国者、在日外国人、不登校経験者などさまざまな背景を持つ人々が学ぶ場へと変化。民間の市民による開設運動も行われるようになりました。こうして、何らかの事情を抱えて教育制度から排除されてきた人々の受け皿として機能するようになったのです。

一方で、制度を前提としないままに運営されていた夜間中学校は、日本社会のなかで“必要悪”として黙認されてきた歴史があります。というのも、夜間中学校の存在が義務教育制度を歪めるのではないか、かえって児童の労働を助長する側面もあるのではないかともみなされてきたからです。

ところが近年、こうした状況に大きな変化が訪れています。2016年に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」が成立し、すべての都道府県に少なくとも1校の夜間中学校が設置されるよう文部科学省が支援を行うようになりました。

夜間中学校が学齢期の子どもたちのために自然発生的に開校された「第1の流れ」、民間の市民運動等の要請を受けて義務教育未修了の学齢を超過した人々の受け皿となった「第2の流れ」。そして、政府主導で設置が進められている「第3の流れ」。時代ごとのフェーズを超え、これから夜間中学校がどのように展開されていくのかに関心を持って私は研究に取り組んでいます。

見過ごされてきた人たちに寄り添いたい  研究をきっかけに現場経験も

私はもともと大学院で教育史を学び、横浜市の小中学校で事務職員として働きながら研究を続けていました。大学院生までは、在日韓国・朝鮮人をめぐる教育問題をテーマとしており、学校職員となってからは夜間中学校を研究対象としました。研究の過程では、設置している中学校に赴任することも叶い、実際の夜間中学校の教育現場に触れながら研究することができました。現場で実感したのは、社会で苦しい立場に置かれている人々にとって、夜間中学校が大切な居場所になっているということ。学校は閉鎖的な空間として問題視されることも多いですが、時にその閉鎖性が社会との距離を生み、心の拠り所になってくれます。私が研究において大切にしているのは、制度的に見過ごされてきた人々に寄り添い、人々を取り巻く問題に光をあてることです。そこから公教育の問題を逆照射することが、自分の果たすべき役割だと考えています。今後は、学校に携わる教職員の中で少数配置の職種である小中高特別支援学校の「学校事務職員」にも光をあてたいと考えています。

現在担当している教育学の授業では、学生にも多様な意見を尊重し、物事を多角的に捉える力を身につけてほしいと思っています。立場が違えば問題の見え方や考え方も異なるものです。学生時代を過ぎると、なかなか新しい価値観に触れる時間を得ることができなくなってしまいます。皆さんには、多様な背景を持つ人々や多くの文献との対話を通して、さまざまな意見や考えに触れ視野を広げてもらいたいと思います。

Photos

  • 夜間中学映画祭の運営に関わらせていただきました。その際に、ポスターの原画の選定もスタッフのひとりとして関わらせていただき、その時から温かな雰囲気の漂うこの絵が好きになり今ではお気に入りのポスター画です。初めての単著の表紙にはぜひこのポスター画を使わせていただきたいと思って拙著を書き上げましたが、その願いが叶って表紙にも利用させていただくことができました

  • 恩師の退職に合わせて、恩師と研究室のメンバーで論文集を編纂しました。このこと自体が感無量の思いですが、何より、表紙には藤田嗣治作「猫の教室」を用いることができました。先輩からの提案でしたが、猫好きな恩師にもピッタリですし、戦後すぐに描かれたこの作品はユーモラスな中にも人間社会や学校教育へのちょっとした皮肉が込められているようにも感じられたり。でもとても眼差しの温かさを感じています。自分はどの猫?と照らし合わせてみたりも。表紙を含めてお気に入りのひとつになりました。

SDGsの取組み

地域課題

SDGs・地域課題について

Teacher's News

大多和 雅絵先生の関連ニュース

Recommend

他の先生もチェック!