Yuichi Sugizaki
杉崎 裕一 特別助教
Profile
出身地/神奈川県
子供の頃の夢/大工
尊敬する人/恩師、友人
趣味/写真撮影
休日の過ごし方/ドライブ、料理
好きなTV番組/『プロジェクトX』
好きな映画/『スターウォーズ』
好きな食べ物/シチュー、餃子
目には見えないナノスケールの世界から、未来を支える材料を生み出す
社会を支える「表面化学」の重要性
私の専門は「表面化学」と呼ばれる領域です。物質の表面がどのような構造や状態になっていて、どのような現象が起こり、どのように反応が進むのかを理解し、その性質をコントロールすることで、新しい機能や材料を生み出すことを目指しています。
「表面」と聞くと、「物の外側」というイメージがあるかもしれません。しかし化学では、反応の多くが表面で生じているので、表面化学は極めて重要な領域です。たとえばスマートフォンに欠かせない半導体。その中心にあるシリコンウェハーでは、表面の状態を高度に制御することで、精密な電子回路が形成されています。スキンケア製品も、皮膚という「表面」に働く仕組みを理解してこそ開発できます。化学反応の速度や効率を大きく左右する「触媒」も、物質表面で反応が進行します。つまり私たちの日常は、「表面化学」に支えられているのです。
私は、これまで、宇宙空間レベルの真空環境をつくり、その中で材料を高温で蒸発させ、別の基板上に付着させていく「薄膜合成」という技術を用いて、材料の表面物性に関する研究に取り組んできました。具体的には、酸化チタンに代表される金属酸化物の薄膜です。これらの物質は、材料をどの方法で成膜するかには複数のルートがあり、目的に応じて最適なプロセスを選ぶことで材料を作製し、その機能を評価してきました。現在は、薄膜合成で培った、物質表面を原子レベルで精密に制御する技術や知見、経験を活かし、「どのように表面を制御すれば材料の性質が変わるのか」という基礎的な部分に注目しつつ、コロイド界面化学などの別の研究領域と表面化学とを融合し、例えば日焼け止めクリームの有効成分として使われる新しい材料開発など、応用化学科の中でも幅広く材料研究へ展開していきたいと考えています。
表面の理解と制御は、エネルギー問題やカーボンニュートラルといった社会的課題の解決にもつながります。私自身、学生時代に「エネルギーをどう生み、どう節約するか」というテーマに強い関心をもち、そこから表面化学の世界に飛び込みました。太陽光パネルの表面材料や、触媒反応の効率化など、表面科学が社会の未来を支える領域は数多くあります。小さな「表面」の世界から、社会の大きな課題を解決する。それが私の研究の原点であり、これからの目標でもあります。
化学の研究は、実験を繰り返す「孤独な作業」と思われがちですが、実際には周囲の人との議論によって大きく前進します。学生も教員も、立場に関係なく、サイエンスの議論では同じ舞台に立って議論することができます。学生の一言で視点が変わり、考え方が広がることも少なくありません。若い人が気づく柔軟な視点と、経験豊富な研究者が持つ知識が交わることで、研究はより豊かになります。
実験で「普遍的な考える力」を鍛える
化学生命学部では、主に2年生を対象とした「学生実験」を担当しています。私が担当する実験では、分析結果を班全体のデータとして共有し、互いに比較し合いながら考察を深めます。その際、よくあるのが「同じ班の結果なのに、レポートに記載された数値が学生によって違う」というケースです。原因を尋ねると、「班で連携がうまく取れていなかった」「確認し合っていなかった」と気づく学生も多くいます。そこで私は、「この実験では、データはみんなのもの」という意識を徹底するよう伝えています。データの扱い方からコミュニケーション、ディスカッションまで、研究の基本は実験に凝縮されています。理論や方法だけでなく、現場での協力・確認・対話がどれほど重要かを、学生実験を通じて学ぶことができるのです。
さらに、私は提出されたレポートを添削したあと、一人ひとり、5~10分の面談で必ずフィードバックするようにしています。学生ごとに「良いところ」や「つまずき方」が違うため、画一的なコメントでは伸びないからです。個別にフィードバックすることで、次のレポートにつながるヒントを渡したいのです。指摘が多くつく学生もいますが、それは「可能性の大きさ」でもあります。なぜその指摘をされたのか、どこが本質的な課題なのか。対話を通じて、学生には「ただ言われた通りに直す」のではなく、「なぜそうするのか」を考える姿勢を身につけてもらえたらと思っています。
なぜなら、研究室に配属される3年生以降では、学生自身がテーマを深める主体になります。その前段階として、2年生までに「言われたことを踏まえて考える力」を育ててほしいのです。指摘は謙虚に受け止めつつ、「なぜそう言われたのか?」「ほかの視点ではどう考えられるか?」と自ら問い返す習慣をもつこと。これは研究だけでなく、社会で働くうえでも不可欠な力です。面談の中で、「こうではないですか?」と返してくる学生には、私は「いいね、その視点」と必ずリプライしています。自分の頭で考えること、それを言葉にして議論すること──これらは研究の入口であり、成長の核です。私自身、学生の頃に恩師や先輩がたから「ディスカッションは、自分の正しさを証明する場ではなく、自分から出てこなかった意見に出会う場」と言われました。その言葉は、今の教育の核になっています。
失敗を力に変え、仲間と支え合いながら未来をひらいてほしい
大学では、「失敗から学ぶ力」をぜひ身につけてほしいと思っています。私自身、これまでに多くの失敗を経験してきました。博士号取得後に大学職が決まらず、最初に進んだのは特許事務所でした。周囲からは「研究から離れるの!?」と驚かれましたし、自分自身も不安を感じていました。しかしそこで得たのは、大学での研究とは違う見方―「お金とのバランス」「どこでどう役立つかどうか」「成果を現実の製品や仕組みに生かす視点」という新しい軸でした。特許の世界では、No.1の技術であることよりも、「どれだけ広く役立てるか」が重要です。この視点は、現在の研究にも結びついています。
その後、教科書出版社へ転職し、小中学校の授業現場を見る機会も得ました。タブレット端末を使った個別最適な学習や探究型学習など、これから大学に入ってくる世代がどのように学んできたのかを現場で知れたことは、大きな財産になりました。
こうした回り道は、当初思い描いていた将来とは違うため「失敗」に見えても、長い目で見ると、研究者として、教育者としての厚みをつくってくれました。このように成功よりも、むしろ回り道や悩みの中で得る経験こそが、将来のあなたを支える力や財産になります。大学は、挑戦と軌道修正を繰り返しながら、自分の道を見つけていく場所です。私たち教員は、学生が挑戦し失敗したとき、フォローする役割もあります。ですので、どうか失敗を恐れずに、自分の興味に正直に、さまざまなことに手を伸ばしてみてください。
また、大学生活では、スケジュールを逆算する習慣を身につけてほしいと思います。大学生活は、授業やレポート、実験に追われて慌ただしく感じるかもしれません。卒業研究、就職活動、進学など、3~4年生になると多くのイベントが重なります。特に応用化学分野はやることも多く、計画性が欠かせません。学生には、「卒論提出や進路決定など後ろのスケジュールから逆算して、必要な準備を考えること」を勧めています。予定どおりに進むことは少ないため、「余白」を見込んだ計画づくりが必要です。これは社会に出た後も役立つ力です。
そして何より、大学時代に意識してほしいのは、友人づくりです。私自身、今も交流が続く友人は、高校・大学・大学院時代の仲間たちです。年齢を重ねるほど、気兼ねなく話せる友人の存在は貴重になります。SNSで簡単につながれる時代だからこそ、直接会って話ができ、互いに支え合える仲間を大切にしてほしいと思っています。研究がうまくいかないとき、生活で悩んだとき、真正面から話せる友人がいることは大きな力になりますよ。
化粧品ナノデザイン研究室
生命機能学科の山下裕司教授の研究室に所属しています。山下先生はコロイド界面化学や、その視点を用いて化粧品について研究をされていますが、私は化粧品に含まれる機能性物質やその表面について研究をしています。表面化学の立場から化粧品をサイエンスすることで、ファンデーションや日焼け止め剤の有効成分を、より安全でより高性能にしたり、新しい材料を開発したりして、世の中に広げていきたいと考えています。私の研究では、大学外の大型実験施設を使った実験も予定しており、研究を通じて、他大学や他国の方との交流もできると思いますよ。
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