Inoue Sumika

井上 澄香 特別助教

所属
化学生命学部
生命機能学科
関連リンク
専門分野

キーワード

Profile

出身地/兵庫県
子供の頃の夢/研究者
愛読書/『菜根譚』
趣味/ハイキング
好きな食べ物/チーズ

構造を立体的に捉えることで、化学の世界が「可視化」される面白さを実感してほしい。

生命活動に欠かせない「酵素」の働きに着目し、新薬の可能性に挑む

「脂質が結合したペプチド」が微生物によってどのように合成されるのかを研究しています。脂質とは油のような性質を持つ分子、ペプチドはアミノ酸がつながった小さなタンパク質のようなものです。脂質と結合したペプチドにはさまざまな生物活性があり、病気の治療薬のもとになる可能性を秘めています。

特に私が注目しているのは、それらの分子を生体内でつくる「酵素」の働きです。酵素は、生命活動に欠かせない化学反応を促進する「生体の触媒」のような存在です。例えば、試験管の中ではなかなか進まない反応も、酵素があることによって一瞬で進んだり、特定の立体構造を持った分子だけを選んでつくったりすることができます。これが人工的な合成では難しい、酵素ならではの魅力です。

脂質が結合したペプチドに関しては、ペプチドの部分が非常に強い生物活性を持っており、脂質がつくことで細胞膜に結合しやすくなったり、安定性が高まったりといった性質が加わります。つまり、構造の工夫によって、体内で効率よく目的の場所に届き作用するようにできるのです。

この研究がめざしている先には、これまで治療が難しかった病気に対する医薬品の開発があります。特徴的なのは、脂質が結合したペプチドが「標的指向性」を持つことです。つまり、体内にある特定の病原体や原因物質だけを狙い撃ちし、健康な細胞には影響を与えにくいという利点があります。

私がこの研究に興味を持ったのは、人工的な分子をつくる研究をしている中で、より自然に近い、微生物などが持つ天然の仕組みにも着目するようになったからです。特に「酵素がどのようにして分子構造を認識し、反応を起こすのか」という点には大きな魅力を感じています。

バイオサイエンスの現場で活かされる、有機化学を学ぶ

神奈川大学では「有機化学演習」や「学生実験」を担当しています。有機化学とは、主に炭素を中心とした分子の構造や反応を扱う分野です。高校の化学でも有機化学に触れる機会はありますが、大学では構造の立体的な違いや、反応が進む仕組みを理論的に理解することに力点が置かれます。例えば、高校ではアミノ酸や糖などを平面的な構造で覚えることが多いと思いますが、大学ではそれを立体的に捉え、どういった条件でどのような反応が起こるのかを考えます。構造を頭の中でイメージする力が必要になり、視覚的に理解する力も問われます。

私自身、タンパク質やペプチドの研究を通して、有機化学の知識がどれほど重要であるかを実感しています。例えば、ある生物活性物質がどうして特定の働きをするのかを理解するためには、その構造を細かく分析することが不可欠です。アミノ酸の配置を考えることで、どのような働きをするのかが見えてきます。

講義では、こうした化学の知識がバイオサイエンスの現場でどのように活かされているか、具体例を交えて紹介することもあります。例えば医薬品の設計や食品、化粧品の開発といった場面では、有機化学が基盤となっています。学生の皆さんが「これが現実の世界とどうつながっているのか」を感じられるようにすることを大切にしています。

有機化学は、一見すると複雑で難しそうに見えるかもしれませんが、構造が見えるという面白さがあります。実際に実験を通じて手を動かすことで、抽象的だった概念が腑に落ちる瞬間もあります。そうした体験を通じて、化学の奥深さや楽しさを感じてほしいと考えています。

発見の喜びを感じながら、継続してほしい

大学での学びを通して、学生には「主体的に学ぶ姿勢」を身につけてほしいと願っています。例えば、実験を行う際に、ただ手順通りに作業するのではなく、「なぜこの操作をするのか」「どうすればうまくいくか」を自分で調べ、考えること。そうした積み重ねが理解を深めますし、やり遂げた経験は自信にもつながります。

実際に、学生が実験中に新しいアイデアを出したり、私自身が思いつかなかった視点を提示してくれることがあります。そうした瞬間はとてもうれしく、研究の醍醐味を改めて感じさせてくれます。他者と話す中で新たな発想が生まれるというのは、研究において非常に大切なプロセスです。

いろいろな活動をしていると、うまくいかないことや苦手なこともあるかもしれません。私自身も、研究がいつも順調に進んでいるわけではありませんでした。しかし、そんなときでもあきらめないで継続すれば状況が改善することもあります。そしてうまくいかない時期を乗り越えた経験が、その後の自信につながります。継続することが苦手だと感じる人は、まずは少しでも興味を持てることを見つけ、そこから始めてみてください。「あのとき頑張った」という経験は、きっと将来のあなたを支えてくれるはずです。

生物活性物質化学研究室

活性物質をとる、つくる、いじる

私達の研究室では、自然界に存在する有機化合物について研究しています。これまで多くの天然有機化合物を探索・発見してきました。その中から医薬品や香料を始めとした、様々な分野で今でも頻繁に用いられている有用物質が開発されています。興味深い生命現象を引き起こす生物活性物質は数多く報告されており、未発見の有用天然有機化合物も残されていると考えられています。そういった生物活性を有する有用天然有機化合物を探索・発見に取り組むとともに、化学合成や分子生物学的手法を用いて供給を目指します。あわせて、生合成経路の解明や、活性発現の機能解明研究を展開しています。

Photos

  • 研究対象にしているプレニル化酵素の立体構造。はじめて自分が育てた結晶から、構造を決定できたときの感動は忘れられません

  • 博士課程を修了した際に記念としていただいた、メッセージカードとマグカップ。博士課程での研究生活は、現在の基礎となる貴重な経験となりました

SDGsの取組み

地域課題

SDGs・地域課題について

Teacher's News

井上 澄香先生の関連ニュース

Recommend

他の先生もチェック!