
Tatsumi Masako
巽 昌子 准教授
Profile
尊敬する人/大学時代の恩師、両親
愛読書/サン=テグジュペリ『星の王子さま』
相続の観点から、日本中世を生きた人びとのつながり方や考え方を探る。
史料を読み解き社会のあり方を探ることで、当時の人びとに近づく感覚を味わえる
私は日本の中世、すなわち平安時代末の院政期から鎌倉・南北朝・室町・戦国時代における、相続や継承に関する研究に取り組んでいます。遺産相続は現在の日本でも行われていますが、実は古代・中世といった古い時代から既に法制度が整備され、各種手続きが行われていました。相続はいつの時代にも、貴族、武士、寺院・神社から一般の人びとに至るまで共通してなされたものであり、研究対象は多岐にわたります。
また日本の中世には、貴族、武士、寺院・神社、一般の人びとが、それぞれの社会を形成していました。それらの社会の特徴を捉えることは、中世という時代の特質、つまり他の時代と異なる要素を考えていく上で重要になります。そこで相続という、いずれの社会においてもなされていたことを軸とし、各社会の共通点や相違点を探ることによって、日本中世という時代の特質の解明を目指しています。
加えて、相続は人間らしさが強く表れるテーマでもあります。特に中世では土地支配が地位や財産の象徴でもあったため、当時の史料からは相続の当事者の懸命な様子が伝わってきます。中世の史料を読み解くにあたっては多くの勉強が必要ですし、なかなか骨が折れますが、その分、新しい発見につながったときには大きな喜びが得られます。その時代の社会や生活の様子を明らかにすることで、当時を生きていた人びとに近づく感覚が得られるところに、研究の興味深さとやりがいとを感じています。さらには研究を通じて、はるか昔の中世社会に生きた人びとと、現代に生きる私たちとの共通点や相違点が見えてくることにも意義を見出しています。
私が担当している「日本の中世」や「歴史史料実習(中世)」といった授業では、最新の研究成果も踏まえつつ、中世を学ぶ上で必要となる基礎知識や研究手法を幅広く扱います。高校の授業で教わる「日本史」の背景には、砂を一粒ずつかき集めるようにして積み重ねられてきた「日本史学」の研究があります。授業を通して、高校までの「日本史」と、大学で学修する「日本史学」という学問との違いを、学生のみなさんに意識してもらうことを心掛けています。また歴史学は過去を扱う学問ですが、新史料の発見や史料解釈の変更によって定説が覆ることもあれば、過去の事象から現代社会の諸問題を捉えるヒントが得られることもある、ということも併せて感じてもらえればと思います。
偶然の出会いを大切に、多様な価値観や文化に触れてもらいたい
私が日本の中世史に関心を抱いたきっかけは、こどものときにスタジオジブリ映画の『もののけ姫』を観たことでした。この作品が歴史学者の網野善彦先生の研究内容に影響を受けていると知り、中学・高校生のころに網野先生の書籍を読みました。網野先生は神奈川大学に教員として勤められた方で、民衆に注目して日本の中世史を捉え直した研究者として知られています。中世の人びとが抱いていた概念や考え方を学べば学ぶほど、新たな疑問、知りたいことが増えていく感覚が面白く、日本中世史をより深く追究してみたいと思うようになりました。さらに、中世は戦(いくさ)などに注目が集まりやすい時代ですが、私は個人間での結びつきや対立といった、人間ひとりひとりの関係性、つながりが見えてくる「相続」というテーマに興味を惹かれ、大学院以降は相続を中心とした研究に取り組んでいます。
学生のみなさんには、自由な時間があるうちに様々な知識や文化に触れてほしいと思います。それは本を読む、映画を観る、博物館や美術館等に足を運ぶなど、趣味や好きなものに関することでも構いません。多様な価値観や文化に触れることは、視野を広げ、諸問題の考察にあたっての引き出しを増やすことにつながります。今日はスマートフォンひとつあれば、興味のあることや欲しい情報に簡単にアクセスできる時代ですが、偶然の出会いから得られるものも大きいのではないでしょうか。欲しい情報のみではなく、多様な知識や文化に積極的にアプローチしてみることで、物事を多角的に捉える力など、今後社会人として生きていく上で重要な糧となるものが得られるかもしれません。

日本中世史研究法Ⅰ・Ⅱ(ゼミナール)
中世の人びとが遺した史料を通して、現代の私たちとは異なる価値観・考え方に触れる
日本中世の史料(歴史学の研究材料となる資料を「史料」と呼びます)を読み解きながら、当時の社会や政治、文化等の様相を探り、現代の私たちとは大きく異なる価値観・考え方の中で生きていた中世の人びとの姿に迫っていきます。 日本で独自に発展した漢文で書かれた史料を、ひとつひとつ丁寧に読んで解釈していきますが、その際にはいくつもの関連史料を集め、内容を精査し考える作業を繰り返す必要があります。地道に調べ考察する作業を経て、答えにたどり着いたときの喜びは一入(ひとしお)です。「分からないからつまらない」ではなく、「分からないことを楽しむ」という姿勢で、「学び」を深めていくことを目指しています。 また、自ら調べ、学び、考える学修を重ねる中で、自身の考えを論理的に説明する力を養うとともに、他者はどのように考えたのか、異なる意見に対しても丁寧に耳を傾ける姿勢を身に付けてもらうことを期待しています。
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