法学・政治学のとびら
Hello!法学部
「自然人」と「法人」
民法上の「人」(ひと)とは、権利の主体となることのできるものを言い、「人」には「自然人」と「法人」が含まれます。たとえば、Aさんが「この自転車は私の物だ。」と言うことができるのは、Aさんが「自然人」であり、民法上の「人」に当たるからです。(なおもう一つ、この自転車の所有権がAさんに帰属するという意味もあるのですが、今回は触れません。)
ところで、「自然人」て、いったい誰でしょうか。ジャングルで生活するターザンのような人を言っているわけではありませんね。端的に「人間」と言えばいいのに、なぜわざわざ「自然人」というのでしょうか。
法律上の「人」
皆さんは、福沢諭吉の「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり」という名言をご存じでしょうか。人間は生まれながらにして皆平等であるという天賦人権思想を解説したものです。この思想が世界史で最初に登場するのは、フランス革命の人権宣言です。ということは、その当時、人間は平等ではなかったということです。たとえ人間であったとしても、先ほどのAさんのように「これは私の物だ。」と主張することができなかった人間がいたのです。その一例が奴隷です。奴隷は「人」でないだけでなく、主人の所有物でした。
天賦人権思想は、これに反対して、人間であれば誰でも「これは私の物だ。」と言うことができなければならないと考えたわけです。そこから人間は皆生まれながらにして当然に法律上の「人」であるという思想が生まれ、「自然人」と呼ばれることになります。今日では人間と言っても誰も誤解はしませんが、以上のような背景を考えると、自然人という言葉を使いたくなります。ちなみに、「当然人」でもよかったと思われますが、どういうわけか「自然人」という訳が定着しました。
天賦人権思想は、民法以外でも、憲法では「法の下(もと)の平等」(日本国憲法14条)として認められています。なお以上述べた平等は、形式的平等と言われています。今日では実質的平等の実現が課題とされ、そのため「生存権」が規定されました(日本国憲法25条)。