
Hirano Shingo
平野 信吾 特別助教
Profile
出身地/富山県
子供の頃の夢/巨大ロボットをつくる博士
尊敬する人/家族、音楽と読書の師匠
愛読書/田中芳樹、講談社学術文庫
趣味/古本屋めぐり
休日の過ごし方/料理、温泉、コード開発
好きな音楽/ゲーム音楽
好きなTV番組/ガンダムシリーズ
好きな映画/ゴジラシリーズ
好きな食べ物/コーヒー、ラーメン、カレー
コンピュータ上に宇宙を再構築し、138億年の謎に迫る。
天体の生まれる瞬間に注目する
私は宇宙物理学を専門とし、数値シミュレーションを用いて、宇宙の成り立ちを理論的に探っています。銀河や星、惑星の誕生といった壮大な過程を、物理法則にもとづいてコンピュータ上で再現する、いわば宇宙を再構築する試みです。なかでも私が強く関心を寄せているのは、最初に星が生まれる瞬間。「始原星」と呼ばれるその天体を、重力や熱、放射などの物理法則を手がかりに描き出していきます。例えばビッグバンを出発点として、基本的な法則だけをプログラムしておけば、星や銀河が自然に生まれてきます。その進化の過程を追いながら、観測で見つかった未知の天体に理論的な説明を与えるとともに、将来観測される天体の性質を予測することが、私たち理論研究者の役割です。
こうしたシミュレーションには初期条件が欠かせませんが、幸いにも私たちはすでに宇宙の最初の姿を手にしています。1960年代に発見された「宇宙マイクロ波背景放射」は、宇宙誕生直後の姿を私たちに見せてくれました。そこには均一に見える空間のなかに、星や銀河のタネとなる小さな密度のムラが存在しています。こうしたムラを出発点として、現在の星々や銀河の多様性を数値的に再現するのです。
宇宙にある強い光を放つ星といえば、まず太陽が思い浮かびますが、宇宙にはそれよりもずっと重い星が存在します。こうした大質量星はやがて寿命を迎え、超新星爆発を起こします。この劇的な爆発のなかで、金や銀、プラチナといった重い元素が生成されます。「私たちの身の回りにある物質の多くは、かつて星の内部にあった」そう考えると、宇宙は決して遠い世界ではなく、私たちと深くつながっている存在だと感じられるのではないでしょうか。一方、地球のように比較的軽い惑星は、太陽のような恒星と比べてもさらに穏やかな運命をたどります。もし何もなければそのまま宇宙に存在し続けるはずですが、太陽が膨張していくと、地球のような惑星はそのなかに飲み込まれてしまう運命にあります。星々が次第に消えていき、やがて太陽すらも消滅し、残されるのは真っ暗な空間だけ。それが現在考えられている宇宙の最終的な姿です。
こうした長大な時間軸のなかで、もし宇宙の歴史全体を「1日」としてたとえるならば、今は午後3時ごろ。宇宙の後半にさしかかってきているなかで、私たちが星空を見上げ、銀河の光を観測できる今という時代は、実はとても貴重な瞬間なのかもしれません。
観測技術も、近年急速に進歩しています。2021年にはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が打ち上げられ、130億年前の宇宙の姿を観測できるようになりました。観測と理論が互いに影響し合いながら、私たちの宇宙像は日々塗り替えられつつあります。これから研究の世界に足を踏み入れるあなたが、新たな謎や発見に出合う日は、きっと遠くないでしょう。そんな時、ぜひ宇宙を遊ぶような気持ちで、この壮大な問いに取り組んでくれるとうれしいです。
学生時代は自分の「手札」を増やすチャンス!
私は「相対論」という授業を担当しています。相対論というと、とても難解な理論に思えるかもしれませんが、実はそれほど構える必要はありません。高校レベルの微分・積分の知識があれば、十分に学び進められる内容です。というのも、相対論の核にあるのは「考え方の転換」であって、複雑な数学そのものではないからです。
歴史的な流れを簡単に説明すると、16世紀にはガリレオの運動法則、そして19世紀にはマクスウェルによる電磁気学が発展しました。ところが、光の速度が常に一定であるとするマクスウェル方程式は、それまでの力学の枠組みとは矛盾していることがわかってきます。そこに登場したのがアインシュタインです。彼は、「空間と時間を別々に扱うのではなく、一体のものとして捉えれば、この矛盾を解消できるのではないか」と考えました。こうして生まれたのが、特殊相対論です。アインシュタイン自身、若い頃は数学が得意ではなかったと言われています。そんな彼が構築したのが特殊相対論であり、その意味でも、この理論は決して数学ができる人だけのものではありません。もちろん、後に彼が発展させた一般相対論は高度な数学が必要になりますが、まずは特殊相対論を通して、「世界の見方がどう変わるのか」という感覚をつかんでほしいと思っています。
授業では、ただ知識を詰め込むのではなく、自分なりの理解の仕方を見つけてもらうことを大切にしています。例えば授業や演習を通して、ちょっと難しそうに見える概念でも、自分の力で少しずつ理解していく。そのプロセス自体が、今後どんな課題に取り組むときにも役立つ力になります。また、授業を受けながら「自分なりの調べ方」も身につけてほしいと思っています。何かに疑問を持ったとき、自分の足元から調べ始めてみる。その能力を育てる上でも、相対論はとてもよい教材です。もちろん基本的な型は示しますが、それを学んだあとは、自分のスタイルを少しずつ築いていってほしいと思います。
学生時代は、体力の許す限り、いろんなことに手を出してみてください。研究でも、勉強でも、それ以外のことでも、とにかく経験値をためてください。大人になると、挑戦にはいろいろな制約がついてきます。しかし、学生時代なら、興味のあることに自由に飛び込んでいけます。そうして得た小さな経験が、いつか思いがけない形であなたを助けてくれることもあります。だからこそ、今のうちに、自分の手札を増やしてみてください。

計算天体物理学研究室
138億年の宇宙史を仮想空間で再現
この研究室では、ビッグバン直後の“暗黒時代”から宇宙138億年の歴史を仮想空間で再現し、最初の星ファーストスターが生まれる瞬間に迫ります。重力・流体・輻射など高校でも学んだ物理の要素を盛り込んだスーパーコンピュータシミュレーションで、銀河や超大質量ブラックホールの誕生を追跡し、暗黒物質の正体にも迫ります。作り出した宇宙や天体を観測データと照らし合わせ、未知を解き明かす研究室です。基礎からプログラミングやデータ解析まで学び、仮想宇宙で最前線の研究に挑みましょう。
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