お知らせ
2024.09.24
理学部 東海林竜也准教授らの研究グループが3本のレーザー光でマイクロカプセル1粒を捕まえて・壊して・観る分析手法を開発
神奈川大学理学部 東海林竜也准教授らの研究グループは、大阪公立大学大学院理学研究科 坪井泰之教授との共同研究により、3本のレーザー光を用いて光分解性マイクロカプセルからの分子放出を単粒子ごとに分析する手法を開発しました。製造工程で生じる物性や機能のバラつきを一粒ずつ分析することで、より高性能な医薬品マイクロカプセルの開発にも役立つ可能性があります。本研究成果は、2024年7月30日にアメリカ化学会「Analytical Chemistry」誌にて公開されました。
「マイクロカプセルの機能は粒子サイズや化学組成などの物性と密接に繋がっていますが、従来の分析手法では集団平均的な情報でしかカプセルを評価できませんでした。本手法を発展させ粒子の物性と機能を単粒子レベルで評価できれば、集団に埋もれた特異な機能を見つけ出せるものと期待できます。」(東海林)
研究成果のポイント
♦レーザー光を溶液中に集光することで、1粒の光分解性マイクロカプセルや生分解性プラスチックを捕捉。
♦捕捉したマイクロカプセルに別のレーザー光を照射し、捕まえたマイクロカプセルを分解し、さらに別のレーザー光でカプセルからの分子放出を観測。
♦マイクロカプセルの大きさと放出速度の依存性を単粒子レベルで分析。
研究の背景
リン脂質からなる球形状の微小胞体(リポソーム)は薬剤分子を封入できるマイクロカプセルとして利用できます。さらに光や温度、溶媒などに応答する機能性分子をリポソームに付与することで、外部刺激に応じて薬剤分子を放出するドラッグデリバリーシステムのカプセル剤として研究が進められています。この外部刺激に対する分子の放出速度は、カプセルの大きさや化学組成などの物性に依存します。しかしながらリポソームを作製すると大きさや化学組成にバラツキが生じます。そのためこれまでの分析手法では、放出速度をリポソーム集団の平均値として評価してきました。
研究の成果
本研究では3本のレーザー光を駆使し、光分解性リポソーム一粒を捕まえて、壊し、分析することで、粒径と放出速度を単粒子レベルで決定する手法を開発しました。1本目のレーザー光は捕まえる役割を担います。この技術は光ピンセットと呼ばれ、溶液中に漂うマイクロメートルサイズ(1 µmは0.001 mm)の微粒子を非破壊・非接触で捕まえる手法です。2018年のノーベル物理学賞の受賞テーマの一つでもあります。2本目のレーザー光は壊す役割を担います。今回、金ナノ粒子と薬剤モデルとして蛍光分子を内包したリポソームを作製しました。このリポソームにパルスレーザー光を照射すると、金ナノ粒子が過熱されリポソームを分解させることができました。そして、3本目のレーザー光は観る役割を担います。壊れていくリポソームの蛍光スペクトルを連続で取得することで、蛍光強度の経時変化から分子放出速度を決定することができました。この分析手法によりリポソームの大きさに対する放出速度の依存性を単粒子レベルで分析することができました。
研究の展開
この手法はリポソームに限らず、その他のマイクロカプセルにも利用できます。実際に論文では生分解性プラスチック(ポリ乳酸-グリコール酸)単粒子の分析についても報告しています。今後、さまざまなマイクロカプセルの単粒子分析を展開し、物性と関連付けて分子放出メカニズムの解明に役立つ可能性があります。
掲載論文
【題名】Measurements of Spontaneous and External Stimuli Molecular Release Processes from a Single Optically Trapped Poly(lactic-co-glycolic) Acid Microparticle and a Liposome Containing Gold Nanospheres
【著者名】Tatsuya Shoji, Miyako Iida, Mitsuhiro Matsumoto, Ken-ichi Yuyama, Yasuyuki Tsuboi
【掲載誌】Analytical Chemistry
【掲載URL】https://doi.org/10.1021/acs.analchem.3c05950
謝辞
本研究の一部は、JSPS 科研費 基盤研究(C)(JP20K05558, JP20K05242)、基盤研究(B)(JP20H02550)、新学術領域研究(JP16H06507、JP19H05402)、ならびに、住友電気工業株式会社、キヤノン財団、カシオ科学振興財団からの支援を受けて実施しました。
問い合わせ先
【研究に関すること】
東海林 竜也(しょうじ たつや)
神奈川大学理学部 准教授
E-mail:t-shoji@kanagawa-u.ac.jp
【報道に関すること】
神奈川大学企画政策部 広報課
E-mail: kohou-info@kanagawa-u.ac.jp TEL: 045-481-5661
関連リンク
- プレスリリース (876KB)