Ka Kaito
賈 海涛 外国人特任助教
Profile
言語学習を通じて、柔軟な思考を身につけてほしい。
中国現代文学における地域的な言語を研究
中国現代文学における言語を専門にしています。特に上海を舞台にした作品で使用される地域的な言語に注目して研究を行っています。文化地理学的な視点を用いて、場所の記憶や原風景を文学テキストの表象を手がかりに理解したり、文学言語が近代化の一環としてどのような思想史的な背景をもつのかを考察したりしています。作品の例としては、1960〜90年代の上海を描いた金宇澄の『繁花』があります。この作品の特徴は、ほぼ全編が読みやすさに工夫をこらした上海語で書かれていることです。日本では、一般的に中国語といえば北京語のことを指します。そのため、上海語は方言の一種と捉えてもらうとわかりやすいでしょう。上海語を話す登場人物を描くことで、文化的背景や地域性を表現しているのです。ちなみに、『繁花』の日本語訳は関西弁で翻訳されていて、上海語のニュアンスを巧みに表現しています。中国で大ヒットした作品なので、興味のある方は読んでみることをおすすめします。
今後は、注釈や挿絵などのパラテクストにも研究範囲を広げていきたいと考えています。パラテクストとは、本文以外に書物を構成するものを総称する言葉です。また、「サイノフォン(華語語系)」という分野にも注目しています。これは、華語(中国語)という言語を起点として、世界各地で発展する新たな文学のあり方です。例えば、日本や欧州で育った中国人による文学や日本語で創作する中国人の文学などになります。そのような文学作品には言語的な融合が見られ、非常に興味深い研究として国際的に注目を集めています。アイデンティティとコミュニティの間でジレンマを感じたり、その葛藤から新たな文学を創作したりするかもしれません。そこを対象とするのが「サイノフォン」の研究です。
私は、1年次の既習者を対象とする「高級中国語演習(基礎)」を担当しており、学生のなかには中国語圏をルーツにもつ方も多くいます。彼らはスピーキングやリスニングは得意ですが、ライティングに苦手意識があったりするので、そのような部分を重点的に指導していきます。また、既習者、初習者を問わない2年次以降の授業も担当しています。2年次の「中国語演習(コミュニケーション)」と「中国文学概説」、3年次の「中国学演習」では、中国語の基礎となる発音、語彙や文法、翻訳と作文練習、また言語の背後に含まれる文化、さらに現代中国語の起点となる白話文学について学びます。授業では、教科書で取り上げられない言語の多様性にも重点を置いています。例えば、同じ語の異なる地域での発音・使い方、基礎的な語彙の新たな意味、頻繁に使用されているインターネットスラングなどです。これらの実用的で多様な言語材料を用いて、第二言語の習得をサポートしています。
言語学習とは、新たな思考法を獲得すること
言語の学習は、単に知識を得ることや特定の国・地域の文化を学ぶことだけではなく、新しい思考方法を獲得し、既存の固定観念を打破することでもあります。学生の皆さんには、学んだ言語を活用して海外での経験を積んでほしいと思います。短期の旅行や留学、または長期間の仕事でも構いません。海外での経験は、普段の生活から距離を置くことができ、私たちに新鮮な刺激や思考をもたらします。自分がどのような人になりたいのか、どのようなことに楽しみを見いだすのかなどの考えも深まるでしょう。文学理論のロシア・フォルマリズムには、「異化」という用語があります。これは、日常的な言葉や慣習などの常識を揺るがすことによって、文学の言葉に独特の美しさをもたらすことです。同様に、馴染みのある環境を離れる海外での経験も、既存の人生の旅程を異化し、日常生活を新たな視点で観察する機会を提供してくれます。
例えば、日本では餃子がラーメンの付け合わせとして提供されることがあります。これは餃子を主食と考える中国人にとっては理解しがたいかもしれません。しかし、そこに正誤や優劣はありません。私も初めて日本に来た際にはカルチャーショックを受けましたが、次第に慣れていき、餃子とラーメンはいい組み合わせだと思うようになりました。両方とも受け入れられるということです。中国現地の料理も、日本にある中華料理も、どちらも「サイノフォン」の料理です。また、文学においても、中国で発展した文学だけでなく、日本で成長した中国の文学もサイノフォン文学になります。あるいは日本文学の一部でもいいのです。もともと文学は融合し合いながら発展していくものです。学生の皆さんにも、このような多様性と包容力のある思考力を身につけた人になってほしいと思います。
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