Matsumoto Katsuya
松本 和也 教授
Profile
アジア・太平洋戦争期を中心に、海外文化との関係も視野に入れて、日本の近現代における文学について授業をしています。ほかに、現代日本の演劇についても、言葉、身体、演出といった観点から興味を持っています。
生年/1974年
出身地/茨城県
血液型/O型
子供の頃の夢/郵便局員
尊敬する人/つんく♂
趣味/舞台芸術や現代美術をみること
好きな映画/「パリ、テキサス」「バグダッド・カフェ」「リップヴァンウィンクルの花嫁」
好きな音楽/ブラック・コンテンポラリー
好きなTV番組/「モヤモヤさまぁ~ず2」
好きな著名人/満島ひかり、有村架純、伊藤沙莉、岸井ゆきの
好きな食べ物/小籠包
文学や絵画や音楽など、さまざまな芸術に触れるのは、 ものごとのエッセンスへと至るさまざまなルートを考えることでもある。
その時代における文学者や文学の位置づけを知りたい
私の研究テーマは日本における近現代の文学・演劇・美術です。
近年は、特に昭和10年代の文学現象について、集中的に研究を進めています。文学「現象」とあえて書いたのは、私の研究がいわゆる作家・作品論ではなく、その時代に文学(者)がどのような意義や影響力を持っていたのかを知ろうとするものだからです。たとえばある小説に関して、その内容だけを考えるのではなく、その小説がどのような時代状況下で書かれ、どういう出版社から発行され、どのように評価されたのかを調査していく。文学の世界に視野を限定せず、広く当時の時代、社会において「文学者や文学がどのように位置づけられていたのか」を、同時代の資料に即して歴史的に意味づけることを目指しています。こうした研究を通じて、事後的に形成された文学史(評価)ではなく、歴史的な文学史を打ち出しながら、現代社会における芸術や人文学の意義も問い返しています。
大学院時代には、太宰治のデビュー当時の評価についての研究をしていました。当時、「太宰は薬物中毒である」とか「人格的に問題がある」といった噂話がゴシップ記事になり、それはある種の人々にとってはモラル的に許せないことでした。ところがその前衛的な小説は、政治運動に挫折した青年たちからは非常に共感されていたのです。このような違いが面白かった。つまり、私は「太宰が書いたもの」より「太宰について書かれたもの」のほうに興味があったのです。そこを出発点として、次第に時代へと広げていったのが現在の研究です。
昭和10年代、日本は戦争に向かっていました。そうした時代背景のなかで、一部の文学者たちは戦場へ行ってルポを書く従軍記者の仕事や、そこから帰ってきて現場の体験の小説化など、いわゆるプロパガンダに関わっていきます。作家によってはのめりこむように戦場へ赴く人もいれば、ある程度距離をとっているがゆえに、なかなか作品が発表できなくなったり、紙が回ってこなくなったりする人もいました。80年くらい前のことですが、今日の状況と重なるところがあるようにも感じられます。
言葉にしにくい感覚を伝えられるのが文学
担当している「文学」の授業では、川上弘美の現代小説を読んでいます(当時)。ストーリーやテーマの理解だけではなく、その表現上の特徴や、現代社会との接点についても、日常的な事例と擦り合わせながら、講義しています。川上弘美を題材に選んだのは、彼女の作品が「わかりにくい形」で現代社会と関わっているからです。もちろん人によっては純粋に小説として楽しめますが、抽象度や寓意性が高い作品では、いくつか補助線を引くことによって、はじめて現代社会の問題との関わりがわかってくることがある。そこが面白いと思うのです。
「戦争反対」とか、あるいは「恋愛は大事」といった身近なことでもいいのですが、言葉にするのは簡単だけれど実感しにくかったり、しっくりこなかったりすることってありますよね。芸術というのはそういう感覚を、飛躍や寓意を使って伝えることができる。作り手側も工夫して伝えようとするし、受け手側もそれを読み解く技術があればきちんと受けとめられます。わかりやすい文学は、普通に読めば誰にでもわかる。そうではなく、一見「わかりにくい」作品を読み解こうとすることに自分自身も興味があったし、そういうテクニカルな部分こそ、大学で教えるべきことのひとつだと思って授業をしています。
ほかに「舞台芸術論」では、平田オリザ/劇団青年団の演劇を中心に、「静かな演劇」以降の舞台芸術について、その方法論や身体性に注目して、映像資料を用いながら講義しています。また、ゲストを招いてのワークショップや講義も取り入れています。
世の中の多様性に気づかせてくれる文学は「実践的」だ
よく、文学なんて勉強しても社会に出てから役には立たない、といったことが言われますが、これは問い方自体が間違っています。たとえば川上弘美は、わかりやすい異性愛主義ではない恋愛小説をたくさん書いています。『センセイの鞄』に登場する、いわゆる婚期の過ぎた女性とおじいさんの恋愛というのは、たとえば社会が求める「若い人は早く結婚してたくさん子供を産んでほしい」という意向や、大学生がコンパを通してカップルになるという、異性愛の常識とされるものとは違います。また、同性愛なども描かれたりして、「世の中にはこういう恋愛もあるんだ」ということに気づかされます。そんなふうに視野が広がったり、世の中の多様性に気づかされるというのは生きていく上でとても大事なことですし、実践的でもあると思います。
もちろんそれは文学に限らず、絵画や音楽でも同じことです。意識的に芸術にふれることで、ものごとのエッセンスへと至るさまざまなルートを考えたり、文化の多様性について寛容になることができると、私は思っています。ですから学生の皆さんには、なるべくさまざまな文化的刺激にふれてほしいです。友人関係やサークル、留学やアルバイトもそうしたもののひとつと言えますが、もっと「大文字の文学」や「絵画」「映画」「音楽」、さらには舞台芸術や公園・庭園など、何でもいいので、芸術的意匠の凝らされた事象にも多くふれてほしいと思っています。本学はせっかく横浜にあるのですから、横浜の文学館、美術館、博物館などにも気軽に行ってみてほしいですね。
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