お知らせ

2023.07.07

化学生命学部 細谷浩史特任教授らの研究グループの論文が国際英文誌「Frontiers in Microbiology」に掲載されました

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代表的な原生生物の一種である繊毛虫ミドリゾウリムシ細胞内には、数百個の共生藻(クロレラに類似の緑藻)が共生しており、太陽光を利用して生存が可能である動物細胞として注目され、様々な方面から研究が進められています。
細谷特任教授らの研究グループは、神奈川大学構内(湘南ひらつかキャンパス調整池)から単離したミドリゾウリムシ株の中から、外部からの餌の投与を必要としない「無餌培養株」を確立させることに成功しました。
また、ミドリゾウリムシ体内には、真核細胞である共生藻の他に、複数の原核細胞(バクテリア)が共生しており、ミドリゾウリムシの増殖を制御していることを併せて明らかにしました。

上記内容を含む研究成果により、細谷特任教授は2021年11月の日本原生生物学会において「日本原生生物学会・学会賞」を受賞しました。
受賞内容の一部は、その後論文(筆頭著者:氷見英子教授(吉備国際大学))にまとめ投稿し、本年3月に「Frontiers in Microbiology」(微生物関係の国際英文誌)で審査後採択され、公開されています(DOI 10.3389/fmicb.2023.1036372)

研究の概要

ミドリゾウリムシは、「生物における共生のメカニズム解明」にうってつけの実験材料として、古く(1900年当初くらい)から注目を集め全世界で研究が行われている。

ミドリゾウリムシに関するデータが蓄積されつつある一方で、研究者ごとに報告されるデータの再現性(研究者間における実験結果の一致)が低く、データに大きなばらつきがみられる傾向が年ごとに顕著になっていた。

この理由として、世界各地で、ミドリゾウリムシの培養条件が統一されておらず、世界各地の研究者ごとにバラバラであることが主な原因の一つであると認識されるようになった。

例えば、 (a) ミドリゾウリムシの培養時には「餌」が必要であり、各国の研究者ごとに様々な微生物(小型の繊毛虫やバクテリアなど)が餌として使用されていること、また、 (b) ミドリゾウリムシ自体のゲノムの解析がまだ完了していないため、研究者が各地で研究に使用するミドリゾウリムシ株が同じものかどうか判別できず論文に記載がないこと、さらには, (c) 培養時の温度や光照射強度、さらには光照射時間などが研究者ごとにバラバラであること、などが挙げられる。

このような「研究者間での培養条件が統一されておらず、データの再現性が低い」現況では、本分野の今後の発展に妨げとなることが容易に想像できる。

そこで本研究グループは、2016年に本学構内(湘南ひらつかキャンパス調整池)で採取したミドリゾウリムシを単離/クローン化(たった1匹にして、それを2匹、4匹を増殖させること。ミドリゾウリムシの細胞集団を全細胞同じ遺伝子にすること)し、その後、外部からバクテリアなどの餌を一切与えず培養を継続し現在まで生存し続けることのできる株をピックアップ、その株を「無餌培養株」として確立した(上記)。

この株を全世界に広く頒布、同分野の研究者間で共有できれば、上記(a)の解決につながり、「研究者間における培養条件の統一」に大きく近づくことになると考えている。

また、餌としてバクテリアを投与せず長期間無餌培養を続ける過程で、培養液中に一定のバクテリアが存在し続けることを見出した。また、バクテリアを除去するため、抗生物質を投与したところ、本来なら抗生物質のターゲットとならない真核生物のミドリゾウリムシが死滅することを併せて明らかにした。これらの事実から、ミドリゾウリムシの生存にはバクテリアが必要であること、さらには、これらのバクテリアがミドリゾウリムシの増殖速度を制御している可能性を新たに指摘することができた。

論文掲載についてのコメント

本研究は、2015年度以後の、本研究内容に関係したテーマで卒業研究を行った理学部4年生、および、その後本学大学院に進学した大学院生が毎年度蓄積した研究データを中心に、論文にまとめたものです。

また、吉備国際大学の氷見英子教授(筆頭著者であり、バクテリア関係の解析を担当)、国立国際医療研究センター研究所の秋山徹感染症制御研究部特任研究部長、本学関係では、理学部日野晶也名誉教授、井上和仁教授、小谷享教授、北島正治教務職員、さらには松島佑里さん(現在、本学大学院博士前期課程2年)をはじめとする本学卒業研究生と共同で本研究を推進いたしました。