Adachi Hidehiko

足立 英彦 准教授

所属
経営学部
経営教職課程
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Profile

出身地/東京都
子供の頃の夢/医師、マンガ家(当時は手塚治虫さんの『ブラック・ジャック』が愛読書でした)
愛読書/SF小説
休日の過ごし方/盆栽の世話
好きな音楽/バッハ、久石譲など
好きなTV番組/『サイエンスZERO』、『キングオブコント』
好きな映画/『マトリックス』、『風の谷のナウシカ』
好きな食べ物/牛タン、焼き鳥、チャーハン

自分や他者の力をもっと引き出すために役立つ心理学の学び。

臨床心理学をベースにした自己肯定感を高める授業

自分にあたたかい思いやりを向ける能力が高い人は、ストレスに耐える力が強い傾向があります。こういう人は、物事が思い通りにならない時でも意欲的に努力し続け、精神的に成長していくことができると考えられています。また、他者に思いやりを向け、他者の気持ちを理解する共感能力は、よい対人関係を築き、維持するために不可欠です。では、自分や他者に思いやりを向ける能力を高めるためには、どうすればいいのか……それが私の研究テーマです。

専門は臨床心理学と教育心理学です。主に教育現場におけるメンタルヘルスについて、実践的な研究を行ってきました。私は、大学の学生相談室や中学高校のカウンセラーとして様々な生徒や学生の支援を行う中で、カウンセリングなどの心理的支援を受けることに対して関心のない人や、抵抗がある人にも予防的な支援を提供することが望ましいと考えるようになりました。カウンセリングは、多くの場合、本人の心のエネルギーが著しく低下した状態で始まります。このような状態では問題の解決に多くの時間と労力が必要になることがあります。また、自己否定感が強いタイプの人は、カウンセリングを受けることに抵抗感を感じやすく、その結果、問題が深刻化してしまうことが少なくありません。問題が生じてからではなく、問題が生じる前にリスクを低減させておくことで、問題の発生を予防したり、問題解決に要する時間や労力を最小化したりできるのではないかと考えました。そこで、もっと早く、幅広い対象者を支援する方法を考え、「筆記療法」を取り入れた授業を考案しました。

「筆記療法」とは、人生で一番辛かった体験を、1日20分、4日間連続で文章に書くという方法です。辛い経験を思い出すことで、書いた直後は気分が悪化する人が多いのですが、1か月後に調査をすると、心身の健康が改善したという結果が数多く報告されています。感情を言葉にすることで、ネガティブな感情が緩和され、精神的苦痛が低下するのだと考えられています。筆記療法では、何度も繰り返し書くことが重要なのですが、授業の中で4日連続で書いてもらうことは難しいため、1回の筆記で効果をもたらすことはできないか、と考えました。

そのために着目したのが「ロールレタリング」です。これは、1人2役で文通をするカウンセリング手法です。まず、筆記療法の題材となるようなネガティブな出来事の経験を思い出し、その経験について、あたたかく受け止めてくれる相手に向けて手紙を書きます。次に、その相手になりきって自分に宛てた返事を書きます。ポイントは、あたたかい他者の視点から自分の辛い経験を振り返ることです。これによって過去の出来事を違った角度から捉え直すことができ、1回の筆記でも自己肯定感が高まる効果が確認できました。

私はこれまで、こうしたカウンセリング手法を盛り込んだ授業を大学などで行ってきました。

教員の共感性が子どもたちの共感性を育てます

現在は経営学部に所属し、「教育心理学」などの授業を担当しています。教育心理学は、教育を改善することを目的として、心理学的な観点から研究や実践を行う研究分野です。生徒の学習意欲を高めたり、学習をより効率化したりするためにどのようなことが役立つか、人の心や知的能力がどのように成長していくか、いじめや不登校など教育現場の問題をどのように理解していけばよいか、といったことがテーマとなります。

私はこれを、教職課程を履修している学生に向けて教えています。教育現場には、心理的ケアを必要とする児童生徒が数多くいます。そのため、教員をめざす人には、心理学の実践的な知識を身につけて、心が分かる人になって欲しいと考えています。先生が児童生徒の気持ちに共感し、受容してくれるかどうかが、子どもたちに非常に大きな影響を与えます。共感・受容してもらった経験がたくさんある子どもは、共感能力や他者を思いやる能力が高まり、人の気持ちが分かる人に育っていきます。私は小学校、中学校、高校の先生になる人が心のケアやサポートを必要とする児童生徒を救ってあげられるようになっていくためのお手伝いしたいと願っています。

他者と出会うことで、自分自身が見えてくる

大学時代にぜひ取り組んでほしいことの一つは、「自分という人間をより深く理解し、ありのままの自分を少しずつ受け入れていくこと」です。「そんなの簡単にはできないよ」と感じる人もいるかもしれません。たしかに、ありのままの自分を見せるには勇気がいりますし、その過程で傷ついたり、不安を感じたりすることもあるでしょう。誰かに心を開こうとしたときに拒まれるかもしれない、そんな怖さを抱えながら生きている人も少なくありません。

それでも、人は一人では自分のことを完全には分かりません。友人といるときの自分、家族と接しているときの自分、ひとりのときの自分——人は多面体のように、さまざまな側面を持っています。大学時代は、そのいろいろな側面を少しずつ試しながら、自分という存在を探っていける貴重な時期です。大学時代は、学問を学ぶだけでなく、自分自身についてもより深く学ぶ時期になると思います。

無理に「ありのまま」でいようとする必要はありません。ただ、少しだけ勇気を出して、自分の心の一部を誰かと共有してみると、自分の新たな側面に気づいたり、ありのままの自分を受け入れてくれる人に出会ったりすることがあるかもしれません。他者との出会いが、自分自身との出会いにもつながっていく場合があります。

「自分には不完全なところもあるけれど、今はこれでいい」と自分を肯定できるようになると、不思議なことに、よりよい自分へと変わっていくために行動するエネルギーが今以上にわいてくることがあります。「自分を変えたい」と思ったとき、そのための第一歩は「今の自分を受け入れること」である、というのが、人の心の複雑で面白いところだと思います。「自分はこれでいいんだ」と思える感覚がすぐには持てないとしても、少しずつ、その感覚を積み上げていくような大学生活を送ってほしいと願っています。

Photos

  • 盆栽の世話が趣味で、石やミニチュアの建物を配置して盆栽を作ったりしています

  • 『エッシャーの画集』中学生か高校生の時に買って以来、時々眺めているものです。印象派の色鮮やかで明るい絵画も好きなのですが、エッシャーの版画はいろいろ考えさせてくれるところに魅力を感じます

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