国際センターについて

国際センター所長からのご挨拶

的場 昭弘

コロナ禍は、世界を麻痺させ、日常生活の根本を狂わせてしまいました。大学の教育システムや学生生活も例外ではなく、以前のように教室で講義を受けたり議論したりといった当たり前の教育活動ができなくなってしまいました。人間関係を重視して通常の対面形式での授業も行われてはいますが、教員も学生もマスクで口を覆いソーシャルディスタンスを保っての状況では、これまでと同様に教育効果を得ることは困難と思われます。いつかまたもとの普通の状況に戻ると信じながらも、二年以上の時間が過ぎ、これが特殊な状況なのかどうかわからなくなってきました。国民の安全を守るために、世界の国々が入国制限を厳しくして門戸を閉ざす中で、国際センターの最も基本的機能ともいえる国際交流、国際教育の促進は、壊滅的ともいえるダメージを受けました。派遣交換留学は中止、中断を余儀なくされ、送り出し・受け入れの件数は激減しました。年々増え続けていた留学生の姿が消え、キャンパスの国際色が薄れてしまいました。

しかし、このような難局に直面して我々は、国境を越えた信頼関係、協力関係がいかに大切かということを、今まで以上に痛感することになりました。ある一国、一地域においてウィルスの蔓延を防止できたとしても、それは一時的な効果に過ぎず、より感染力の強い変異ウィルスが他国、他地域から侵入してくるという繰り返しです。自国民だけがワクチン接種を済ませれば安全が確保できるわけではなく、国家の経済力にかかわらず、すべての国でワクチン接種が進まなければ、ウィルスの蔓延を防ぐことはできないことが明らかになりました。世界中で犠牲者が増え続け医療体制も逼迫する中で、SDGsでいうところの「誰も見捨てない」という基本精神は、実際に世界共通の行動基準となりうるでしょうか。これまで国民国家という単位を基準にして行動してきた我々は、国家の存在は人類の存続を前提としたものであるという当たり前の事実に基づいて、新たな行動基準を生み出すことができるでしょうか。

神奈川大学国際センターは、その可能性を信じて、困難な状況の中でも国際的な教育・研究交流を促進する努力を今後も地道に続けていく覚悟です。昨年度も、これまで好評だった日本語日本文化プログラムをオンラインで実施したり、言語交流プログラムを通じて協定校の学生とオンラインで親交を深めたりするなどの機会を提供してきました。それは、特に人類の将来を担う若い学生の皆さんに、異文化に対する理解を深め、異なる背景を持つ人々と信頼関係を築くきっかけを提供するためです。他者を理解しようとする努力、他者への思いやりや優しさこそが、自己中心的な所有欲や、未知のものから生じる恐怖心の克服を可能とし、他者との協力を可能とするものです。人類が、自らの存続をかけて、地球温暖化、貧困、差別、疫病といったグローバルな問題に立ち向かうべき時に、隣国へ武力侵攻するような行為は、戦うべき敵を見誤った愚かな行為としか言いようがありません。神奈川大学国際センターは、人類の存続のために解決すべき問題を正しく認識して、世界中の人々と力を合わせて解決策を導き出すことのできる人材育成に貢献できる組織であり続けたいと思っています。

副学長/国際センター所長
大橋 哲