2015.2

神大研究者

山口 栄雄先生

青色の約束

ノーベル物理学者との共著論文がある。
「今は『青色』の研究とは離れてしまった」
と山口栄雄は話す。
しかし山口の研究姿勢には、彼らの哲学が、
今もしっかりと根づいていた。

山口 栄雄 先生

Shigeo Yamaguchi

工学部電気電子情報工学科
半導体の熱の応用
※2015年2月発刊時の取材内容を掲載しております。

Chapter #01「まず、特許を取れ」今では僕も口癖です。

その先生の姿を最近見たのは、テレビの中でした。青色発光ダイオード(LED)を開発した赤崎勇先生(名城大教授)です。
ノーベル物理学賞の栄光を手にした先生の姿を見ていて、私はポスドクの頃に名城大学の赤崎先生のもとで研究をしていた4年間を思い出していました。厳しい先生でしたが、私の研究の上限を大きく押し上げてくださいました。本当に鍛えられた4年間でした。

その中で、今でも大切にしていることが「まず、特許を取れ」です。学会発表や論文発表よりも先に特許を出願し、大学の知的財産である自分の研究を守ること。本当の意味で社会に役立つ研究を推進されていた先生だからこそ、大切にされていたことだと思います。

そして、その研究室に私が居た当時、講師そして助教授を務めておられたのが、同じくノーベル物理学賞受賞者である天野浩先生(名古屋大学教授)でした。
天野先生をテレビや新聞で拝見した時、「本当にお変わりないな」と感じたものです。謙虚で、科学者として誠実な人柄の方です。そして天野先生は、「本当に世の中の役に立つこととは何か」を常に考えておられました。

私がいつも驚かされたのは、天野先生の知識の深さと広さでした。
自分の専門分野以外にも絶えず興味を抱き、常に関心の範囲を広げておられました。

私が神奈川大学に移る時、まず大切にしたのが「以前の自分とは違う自分と出会うこと」、つまり同じことを研究しないようにしたのです。

そのために分野外のことを勉強し始めました。異なる分野の方々にお会いして、今どこで、どんなものが求められているのかを追求しました。自分の目標に対して、まるで海のように広くて深いアイデアを常に持っておられた天野先生のように、自分の関心を遠くへ投げかけました。

そうして私は、まったく新しい研究へ歩みを進めました。今では、振動によってDNAを増幅する、まったく新しい装置の開発に着手しています。従来では100℃近い高温を用いなければ増幅できなかったDNAを37℃という低温で増幅することができ、これまでにない分子生物学の研究を生み出す可能性がある研究です。

今となっては「青色」の研究とは離れてしまった私ですが、赤崎先生、天野先生の姿を見て学ばせていただいた、青色の研究にまつわる約束は、いつも変わらずここにあります。

点接触型PNサンドイッチ構造ペルチェ素子:電流により熱を直接授受することを応用し、生み出された電子式冷却素子(ペルチェ素子)。さまざまな物体の局所的な部分の冷却・加熱を高速で切り替えることを可能にした。この研究は、局所的冷却加熱やDNA増幅に利用される高速高精度PCR装置の開発を可能にした。

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