Suzaki Fumiyo

須崎 文代 准教授

所属
建築学部
建築学科(建築学系)
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専門分野

日本近代建築史、日本近代住宅史、台所史

キーワード

Profile

出身地/千葉県市川市
子供の頃の夢/医師、ピアノの先生
愛読書/ギーディオン『機械化の文化史』、ハンナ・アレント『人間の条件』、小学生の頃は『冒険図鑑』を愛読し、秘密基地を作ったりしていました。
趣味/旅、空や水たまりや石ころを眺めること
休日の過ごし方/読書、料理、ヨガ
好きな音楽/クラシック、ジャズ。歌手ビョークの「joga」が好きです。
好きなTV番組/「ピタゴラスイッチ」
好きな言葉/「そうか!分かった(ユリイカ)!」
好きな食べ物/野菜、フルーツ、ハーブやスパイス、手作りのもの

生活空間の歴史から未来の暮らしのデザインをさぐる。

近代における台所の変遷を研究

「建築史」の研究というと奈良の法隆寺やパリのノートルダム大聖堂など、歴史的建造物を思い浮かべる人が多いでしょう。これらは教科書でも扱われ、世界中の研究者がそのデザインや建築技法についてさまざまな議論をしてきました。一方で、建築史研究のなかで見落とされがちなのが、生活空間の歴史です。

私たちの暮らす社会や環境をかたちづくっているのは、中流階級や庶民の日常生活のために試行錯誤されたデザインです。私の研究は、そうした住まいや生活空間を対象にしています。なかでも台所、風呂、トイレなどの空間デザイン、その基盤となる衛生論や共同性の思想について研究しています。

日本人の生活空間が大きく変化するのは、幕末以降の近代という時代です。この100年余りの変遷を検討することは現代を考えることに自ずと通じます。

たとえば、もともと日本では、かまどと炊事場は別の場所にあり、床にまな板を置いて料理をしていました。それが明治時代以降の近代化政策によって、「立って働きなさい」と奨励されるようになり、立働式のキッチンに変わっていきます。最初50〜60cmの高さだった流し台は、昭和に入ると主婦のへその高さに合わせて75 cm前後がスタンダードになっていきます。さらに、流し台とガスコンロと食器戸棚がセットになったシステムキッチンとして統一されていきます。あらゆるものが規格化、合理化され、大量生産されていく。そんな時代の流れが、生活空間にも反映されているのです。今では、世界中のキッチンが均質化されています。こういうことが歴史を見るとわかってくるのです。

同様にトイレの研究などもかなり興味深いものがあります。近代までの日本では、糞尿は下肥として田畑の作物を育てる上で不可欠のものでした。農家の便所は住宅の南側の中央という大切な場所に位置することもあり、「厠神(かわやがみ)」という神様も祀られました。しかし現在では、上下水道が完備され、糞尿は見えない場所に追いやられました。それは衛生的な面では理解できますが、「循環型社会」を考える上ではどうなのだろうか? そんなことを考えるきっかけを学生の皆さんに与えたいと思っています。

いろいろなものに「実際ふれる」経験をしてほしい

建築学部では、「居住空間史」、「生活空間デザイン演習Ⅰ」、「生活文化フィールドワーク」、「建築グラフィックス」などの授業を担当しています。1年生の必修授業「建築グラフィックス」は、設計・製図の基礎を学ぶものです。図面の描き方や模型づくりのテクニックを修得しながら、空間のリノベーションデザインなどについて考えます。巨匠ミース・ファン・デル・ローエは「ディティールに神が宿る」と言いました。線の一つひとつの意味を考えて図面を描く修練を通して、ディティールにまで行き届く感性を養ってほしいと思っています。現在は、CADなどデジタル技術を使って製図することが主流ですが、「自分の手で描けること」は表現のオリジナリティを高める上で不可欠だと思っています。

私が近年関わってきた建築保存のプロジェクトのひとつに「旧渡辺甚吉邸(昭和9年/今和次郎・山本拙郎・遠藤健三設計)」という住宅があります。内部空間は、チーク材を使ったチューダースタイルの応接間や漆喰装飾の見事なダイニング、泰山タイルを多用した水まわり空間など、唯一無二の価値を有するものです。しかし都心部にあって、取り壊しの危機に陥りました。それを聞きつけた私たち専門家らは、学生たちと共同で実測調査や3Dスキャンなどの記録保存を急ぎました。そうしているうちに、解体・保管に協力してくれる企業(前田建設工業㈱)が見つかり、文化財保存、大工、左官、石職人、家具メーカーなどの技術を集結し、みごとオリジナルを90%以上移築保存するという復原を実現しました。そこには、はじめは答えが見えなくても、議論や試行錯誤を重ねることで見出されていく、とてもドラマチックな保存現場の感動がありました。

また、最近の研究室活動としては、学生と一緒に「小さな地球プロジェクト」の「SSD(里山スクールオブデザイン)」という活動に参加しています(東工大塚本由晴研、都立大能作文徳研、明治大川島範久研と共同)。これは、千葉県鴨川市の里山再生プロジェクトで、住民の方々と協力しながら小屋やコンポストトイレのデザインに取り組んでいます。建築学には、実体験を通して初めて見えてくることがたくさんあります。こうした活動を通して、より理想的な未来を創造してほしいと思います。

同様に、建築学を志す学生の皆さんには、できるだけいろいろなものを「実際に見る」経験をしてほしいと思っています。Instagramを見てわかった気分にならず、実際に現地の空間を体験することで、空気の流れ、温度感、壁の感触、光の変化などが見えてきます。私自身、フランスやポルトガルに留学していた時や、イギリス、ブラジル、モロッコ、中国などで行ったフィールドワークの際にいろいろな建築や都市を見て回った経験はこの上ない宝になっています。時間に余裕がある学生時代に、たくさんのものを見ておくことが、建築を考える上で最高の肥やしになると思います。

[住生活創造コース]生活デザイン史研究室

人間生活の歴史や地球環境に着目し、建築のあり方を探る

研究室では、近代を中心とした歴史研究を行っています。未だ明らかにされていない建築や生活デザインの動向を見つけ出し、文献資料や建築遺構、フィールドワークを通じて検討しています。また、「小さな地球プロジェクト」への参加など、エコロジー/循環型社会について、建築の歴史・民俗や建築デザインを専門とする立場から取り組んでいます。

Photos

  • 歴史研究ではオリジナルの史料(一次資料)にあたることがとても大切です。実物の建築はもちろんですが、たとえば図面は、設計者の思想や時代性を反映する要素が盛り込まれています

  • 研究のお供に、コーヒーやお茶が欠かせない私のことを気遣って、卒業生がプレゼントしてくれたコーヒーメーカー。仕事の励みになっています!

  • 上記「旧渡辺甚吉邸」の魅力と建築保存の記録を扱った展覧会「奇跡の住宅」展や、台所の歴史をテーマにした展覧会「台所見聞録」をLIXILギャラリーで開催しました。写真はそのときのカタログです

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