2021.12

神大研究者

大庭 三枝 先生

自分が生きる
世界の仕組みを知る

少女を歴史好きにしたのは大河ドラマ、 マンガや
アニメは歴史や国際政治への関心のきっかけに。
ベルリンの壁が壊れ、世界が変わるのを見て
彼女は研究者を目指す。

大庭 三枝 先生

Mie Oba

法学部 自治行政学科
国際関係論、国際政治学、アジア国際政治、
地域統合・地域主義研究
※2021年12月発刊時の取材内容を掲載しております。

Chapter #01きっかけはテレビ、映画、
女性首相、そして冷戦終結

8歳にして平将門を描いたNHK大河ドラマ『風と雲と虹と』にはまって歴史が好きになり、高学年では歴史を論じる新書にも手を出した。そんな大庭を国際政治学へと誘った最初のきっかけ、それはアニメやテレビドラマ、そして映画だった。
「小学校の頃から本も好きでしたが、テレビっ子で、アニメも大好きでした。そのころガンダムが人気でしたけど、実はあれは内戦の話なんですよね。ガンダムに限らず、戦争や闘いをテーマとしたアニメってあのころたくさんあって、よく見てましたし、政治や世界情勢がテーマのテレビドラマや映画も好きでした。そして同様のテーマの本を読むように。たとえば映画『二百三高地』を観た後に原作を読むとか。マンガも好きで、歴史や国際情勢を扱ったのをよく読んでました」と大庭は懐かしそうに笑う。
「リアルの世界では、中学生の頃、フォークランド紛争が起こりました。イギリス初の女性首相であるサッチャーがアルゼンチンの同島の侵攻に対して武力の行使を持って応じたということにすごく興味を持って、フォークランド紛争の新聞記事を切り抜いてスクラップしていました。また、イギリスという先進国が関わる戦争を目の当たりにして、改めて世界を動かす仕組みというものにとても興味が湧きました」

その後、歴史か国際政治かどちらを専攻するか決めかねつつ大学に進学。転機は3年の時。ベルリンの壁が崩れ、冷戦が終結。「世界が大きく変化していく。やっぱり国際政治は面白い」と、専攻は決まり、卒業後は東大の大学院へ進学、国際関係論を学ぶ。と、こうして大庭の研究者としてのキャリアが始まるのである。

大庭の著書。左から『東アジアのかたち』(千倉書房、編著)、『重層的地域としてのアジア』(有斐閣、単著)、『アジア太平洋地域形成への道程』(ミネルヴァ書房、同じく単著)

Chapter #02戦争映画が教えてくれたこと

大庭の専門はアジアにおける地域主義、地域制度、あるいは地域統合とよばれるものだ。端緒は大学の卒論に遡る。
「第二次世界大戦後、アメリカやイギリスなどが中心となって、『太平洋協定』を締結しようという動きがありました。日本やフィリピン、オーストラリアも加えて、アジア太平洋に位置する多くの国が参加する安全保障体制を構築しようという構想でした。結局、頓挫するのですが、その顛末をテーマに卒論を書いたんですね」

この頃から複数の国が同じ「地域」にいるということを理由として、対立しつつも協力を志す地域主義や地域統合という政治的営みに興味を持つようになった。当時は1989年のアジア太平洋経済協力(APEC)設立を皮切りに、冷戦終結後の国際環境の変化の中で、アジア太平洋でも地域主義が盛り上がりつつある時期だったのも追い風となった。

研究にはさまざまな一次資料、自ら行った関係者へのインタビュー、報道資料などを用いる。写真は日本の外交史料館やオーストラリアの資料館から取り寄せた資料、また日本政府への資料公開請求という手段で取り寄せた資料。

「アジア太平洋は非常に広い範囲を含む地域概念です。そこには多様な国が存在し、さまざまな利害が錯綜しています。それらを一つの『地域』とくくることそのものが無茶なことなのに、そこで協力が進められようとしている。なぜわざわざそんなことをしようとするのだろうか。そもそもどういう経緯でそんなことをすることになったんだろう。こうした興味から、アジア太平洋地域主義の研究を本格的に始めたんです。この広域の『地域』を舞台とした協力の動きの紆余曲折をずっと追う中で、今メディアにもよく登場するTPP(環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の研究も進めています。

また、アジア太平洋よりもっと広く、多様な領域を含んでいる『インド太平洋』が一つの『地域』として認識され、そこで各国のさまざまな政治的動きが展開しています。どうしてそういうことが起こっているのか、これらの動きが今後の我々の生きる世界にどういう影響を与えるのか、を考えるのもとても面白いですね」

アジアを専門とするにあたってはもう一つ、強い思いがある。
「日本は米英と戦った太平洋戦争のみならず、同時に日中戦争、東南アジアへの侵攻といったアジアにおける戦争も引き起こしています。特に東南アジアを軍政下において多大な被害を与えた事実は日本社会であまり記憶されていない。問題だと思っています。こうした歴史認識に関わる研究は私の専門ではないのですが、多くの先達や現役世代の方々の研究蓄積から学びつつ、授業でもよく取り扱うテーマですね」

Chapter #03自分事として
国際政治をとらえること

そして何より、自分事として国際政治をとらえること。これが大庭の信条である。
「自分が生きる世界は自分の半径数m以内で閉じられていない。その人が意識してようがしてまいが、もっと広く、いろんなものが絡む複雑な仕組みの中で人は生きている。国際政治は遠い世界の出来事では決してない。自分を取り巻く環境の重要な一部なのです。

新型コロナの流行で一時期、人の移動が止まり、グローバル化にブレーキがかかったかのように見えました。しかし実はモノやカネが国境を越えて動く様は変わらなかった。そしてコロナ後には人の移動も徐々に復活するでしょう。世界中の国々の社会が国境を越えて結びついて連動する度合いが強まっている。そうした中で、個々の人々の生活や人生に、国際社会のあり方や国際政治の動きがいっそう大きく影響するようになっている。その一方で、自分たちの行動や選択、それらも実は国際社会のありように影響を与える。多くの人に、そんな視点から国際政治に関心を持ってほしいなと思います」

趣味は料理。肉を仕込んで長時間火にかけた鍋から美味しそうな匂いが漂ってくる中で、論文や本を読んだりすることもある。
「料理って、よい食材を集めてきて、うまく調味料を使ったり、煮込んだり焼いたりと適切に手を加えつつ、食材を生かして美味しく仕上げるものですよね。よい材料を集めてきて、適切に検証や分析をして、自分なりの結論を出して論文などの成果につなげるという作業、料理と通じるところがあるんじゃないかなと思っています」

料理好きな理由は「食いしん坊だから。間違いないです」。そう言って大庭は笑う。

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