Shibuya Hiroshi
渋谷 寛 特任教授
Profile
出身地/群馬県
生年/1954年
家族構成/妻、子2人
子供の頃の夢/天文学者、物理学者
尊敬する人/朝永振一郎博士、丹生潔博士(共に日本の物理学者)
愛読書/『ファインマン物理学』
趣味/散歩、音楽鑑賞
休日の過ごし方/ゆっくりする
好きな音楽/ベートーヴェン、ドビュッシー
好きなTV番組/「チコちゃんに叱られる!」
好きな映画/「スター・ウォーズ エピソードⅤ 帝国の逆襲」
好きな著名人/リチャード・P・ファインマン博士
好きな食べ物/シーフード
科学と科学的方法に対する理解を深めて、 自分の頭で考え、行動する人になろう!
巨大な実験装置を用いて「ニュートリノ」を観測
物理学に興味がある人なら、「クォーク」や「ニュートリノ」という言葉を聞いたことがあるでしょう。これらは、「素粒子」と呼ばれています。物質を構成する原子、陽子、中性子よりさらに微小な粒子になります。私は研究者として、「素粒子物理学の実験的研究」を続けてきました。素粒子物理学とは、つまりすべての物質の究極的な構成要素とその相互作用の研究といえます。なかでも私の研究対象は、ニュートリノです。「原子核乾板」という特殊な写真フィルムからなる検出器を用いた実験によって、ニュートリノの観測を行っています。
電気的に中性のニュートリノは目には見えませんが、たくさんのニュートリノが物質を貫通すると、ごくまれに物質と反応して荷電粒子を放出します。その荷電粒子の飛跡を原子核乾板で観測すると、そこにニュートリノが飛んできたことがわかります。さらに観測された荷電粒子の種類によって3種類あるニュートリノのどれかということも明らかになります。物理学の理論ではなく、「実験」によって微細な粒子の存在を明らかにするのが私の研究の特徴です。
私が参加した大がかりな実験に、2000年から2015年にかけてヨーロッパで行った「OPERA実験」があります。これは、スイスのCERN研究所から730km離れたイタリアのグランサッソ国立研究所に向けて「ミューニュートリノ」を照射し、日本の研究チームが開発した原子核乾板でニュートリノ振動による変化を観測するというものでした。ここで、存在仮説を立てていた「タウニュートリノ反応」を検出することに成功。200人を超える研究者が関わった国際プロジェクトで確かな成果を残すことができました。この実験を経て、現在はニュートリノに関するさらに詳細な基礎研究に取り組んでいます。
「宇宙」への興味から素粒子物理学の世界へ
私が素粒子物理学に興味を持ったきっかけは、「宇宙の神秘」でした。この宇宙はどうやってできたのか、はたしてどのくらいの大きさなのか……そんなことを考えていた中学・高校時代、宇宙を知るための道標として物理学と出合い、相対性理論や量子力学にのめり込んでいきました。そして、大学は理学部物理学科に進学。ここで、恩師である物理学者の丹生潔(にうきよし)先生と出会います。私は、丹生先生の研究室に所属し、博士課程まで素粒子の研究に没頭しました。
私が研究室に所属していた1970~80年代、素粒子に関する新たな発見が続々と報告され、研究生活は常にエキサイティングでした。在学中、フェルミ国立加速器研究所というアメリカを代表する物理学研究所への留学を経験し、研究の視野を大きく広げることもできました。皆さんも機会があれば、ぜひ在学中に海外で学ぶ経験をしてください。日本を外から見る経験は、将来の仕事や研究で役立つ新たな視点を与えてくれるでしょう。
科学の新しい考え方が社会に受け入れられる過程が面白い
現在、授業では工学部の「物理学実験A」と共通教養科目の「物理科学」などを担当しています。「物理学実験A」では、具体的な現象の測定を行い、物理法則を確認すると共に、実験計画の立て方、測定原理、データ処理法、レポート作成法などを学んでいきます。一方、「物理科学」では、現在私たちが学んできた宇宙に関する認識が、天文学や物理学の成立とともに、どのように形成され、発展してきたかという過程を学びます。例えば、宇宙は138億年前の大爆発から始まったという「ビッグバン宇宙モデル」、コペルニクスによる天動説から地動説への転換など、科学の新しいアイデアが実験や観測によって検証され、受け入れられていくプロセスを豊富なエピソードとともに紹介しています。
私が授業を通じて皆さんに伝えたいのは、「科学とは、異なる専門家が提唱したさまざまな仮説を多角的に検証しながら、徐々に真実に迫る集団的な営みである」ということです。この大原則を理解できれば、メディアがあおる専門家の仮説を盲信するようなこともなくなるでしょう。科学と科学的方法に対する理解を深めて、自分の頭で考え、論理的に物事を判断し、行動できる人をひとりでも多く育成していきたいと思っています。
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