Kinoshita Naoyuki

木下 直之 特任教授

所属
国際日本学部
歴史民俗学科
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専門分野

日本美術史、博物館学

キーワード

Profile

出身地/静岡県浜松市
生年/1954年

見逃しがちな「当たり前」の風景を問い直し、その歴史を探る面白さを知ってほしい。

新しい「言葉」がたくさん生まれた19世紀

現代の日本社会の大きな枠組みができ上がったとも言える19世紀。西洋から多くを学んだ日本人は、新しい概念に自分たちの言葉を当てはめて取り入れていきました。私が研究対象とするのは、この時代の日本文化です。
例えば、19世紀には写真が発明されました。この新技術を日本人は「真」を「写す」と表現し、撮影行為を「影」を「撮る」ことだと受け止めました。しかし、実際に写真に「真」が写されているかというと、そんなことはありません。また「影」という言葉は日本では古くから「人の姿」を意味してきましたが、今は動画撮影も簡単ですね。技術革新が目まぐるしく進む中で、撮影行為のあり方は大きく変化してきました。現代の生活に浸透している言葉や行為がいかに形づくられ、その意味を変えてきたかを考える上で、19世紀は実に興味深い時代なのです。このような写真の発明と普及といったテーマの他にも、猥褻(わいせつ)概念の成立に伴う春画の退場とヌード芸術の登場、神仏分離政策、都市空間への公共彫刻の出現など、19世紀の新しい造形表現の動向に注目し、研究を行っています。

博物館で携わったある展覧会が、今の研究を決定づけた

19世紀を研究の対象としたのは、40年ほど前にさかのぼります。今でこそ日本美術史や博物館学を専門とし、静岡県立美術館の館長も務めていますが、学部生時代に学んだのは西洋美術史でした。20代半ばで初めて美術館に就職した私は、日本の美術、日本の文化については何ひとつ知らないことを痛感しました。以降、西洋の美術という概念が受け入れられ、成立する19世紀の日本社会を調査・研究する中で、他のさまざまな現象も目につくようになっていました。
一方で、当時の美術館が扱う作品といえば、絵画や彫刻など限定的なものばかり。それを窮屈に感じ、より間口の広い大学博物館へ転職しました。今の研究の方向性を決定づけたのは、ここで担当した2つの展覧会です。そのひとつが「ニュースの誕生~かわら版と新聞錦絵の情報世界」展。中でも日本初の民間新聞「横浜毎日新聞」の展示が刺激的だったのを覚えています。横浜毎日新聞は、その名の通り、「毎日」出すことを始めた最初の新聞。驚くことに、創刊号の紙面は空欄だらけでした。当たり前ですが、これはその日ニュースがなかったことを意味します。今ではニュースと新聞の関係は逆転し、新聞やテレビ番組の枠を埋めるためにニュースがつくり出されていますよね。このように、歴史に光を当てることで、当たり前だと思っている現代の風景やそこに隠れている問題点を見つめ直すことができると知りました。
振り返ると、40年前、絵画や彫刻作品しか扱わない美術館で「美術」の境界線とは何かを意識し始めたのが今の研究にもつながっているのだと思います。境界線とは、つまりはその言葉が表す範囲のこと。誰もがものを考える際に使う「言葉」の成り立ちを意識することに、研究の上でも、普段の暮らしの中でもこだわり続けたいと思います。

ふとした時に立ち止まり、日常を見つめ直してほしい

学生の皆さんには、「なぜこれが、ここに、このような姿で存在しているのだろう」と考えてほしいですね。当たり前に使っている言葉にも疑問の目を向けることがとても大切です。成り立ちを知らないまま物事や言葉を受け入れてしまうと、一種の思考停止に陥ってしまうからです。
そして、どれほど遠い時空間の出来事を考える場合にも、現代の問題や自分の問題に引きつけて考えられる人になってほしいと願っています。それは過去の人々と対話することでもあり、さらに言えば、他人の考えや言葉、主張に耳を傾けることでもあります。ただし、現代の基準で過去を決めつけてしまわないよう注意が必要です。時代・地域ごとにまったく異なる価値観のもと営まれてきた暮らしと文化を理解した上で、現代の目をもって批判し判断することが大切です。
最後にもうひとつ、コロナが収束したらぜひ旅をしてほしいと思います。若い世代の皆さんが最も接するインターネットの情報は、ほとんどが編集済みのもの。編集される以前の、生の情報・現場をできるだけ経験することを意識してみてください。編集の過程でどうしても抜け落ちてしまう情報や体験があることを、忘れないでほしいと思います。

Photos

  • 麦殿大明神は江戸時代に信仰された麻疹(はしか)除けの神のひとり。当時の造形表現に日用品を用いてつくる見立て細工の手法「つくりもの」があり、それにより復元を試みてきました。2018年には荒物細工で、2021年には籠細工で製作しました

  • JR赤羽駅前に立っている男性裸体彫刻。この彫刻を目にした時から男性裸体像の研究に着手し、ふたりを「股間若衆」と名づけ、同名の著書を2012年に出版しました。女性裸体像が早くから商品化される一方で、なぜ男性裸体像はあまり相手にされてこなかったのかを問題視しましたが、近年、その状況は変わり始めています

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