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【展示企画】宇宙とデブリ(宇宙のゴミ?)(7/14-9/20)

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地球を取り巻く宇宙デブリ
(YouTube「NASA Video」“Space Debris in Motion”)https://youtu.be/IOwv1j-fUbo
地球を取り巻く宇宙デブリ (YouTube「NASA Video」“Space Debris in Motion”)https://youtu.be/IOwv1j-fUbo

 昔、人々は星空に神々の姿を描き、太陽や月から暦をつくり農耕に利用し、星々を利用して大海原における船の位置を推定していました。そして現在では、各国の宇宙開発競争が起こり、有人月探査計画を始め、ロケットにより各種通信やGPS衛星を打ち上げ、民間企業による超小型衛星を用いた地上観測や惑星資源採掘計画など、国際的な宇宙空間の利用が大変盛んになり、さらに星々に向かうために、地球から宇宙船で飛び出そうとしています。今回の展示では、これまで以上に活発になっていく宇宙開発にとって、事故の原因となりかねない地球の周りに存在する「宇宙デブリ」について紹介します。他にも、宇宙関係の書籍や実際に人工衛星や宇宙ステーション輸送機「こうのとり」でも用いられている部材なども紹介していますので、是非、併せてご覧ください。

展示期間

7月14日~9月20日

会場

神奈川大学図書館1階展示コーナー

お問合せ

神奈川大学工学部 宇宙エレベータープロジェクト(江上研究室)

電話番号

045-481-5661(代)

解説

 宇宙デブリ(Space Debris)とは、主に宇宙空間に漂っている役目を終えた人工衛星やロケットの一部、金属片などのことを意味します。(debrisは、がらくた、残骸、瓦礫などを意味します。)他にも宇宙遊泳中に宇宙飛行士が無くした手袋など様々なものがあります。言わば、人類が宇宙空間にまき散らした「ごみ」です

 現在、地上から観測が可能な直径10 ㎝以上の大型のデブリは17,000個以上あり、現時点では観測ができない小さなものを含めると、その数は1億個以上になると考えられています。2017年にドイツで行われたデブリに関する会合での報告によれば、衛星や探査機を破壊するほどの大きさのデブリはこの四半世紀足らずで倍増していると言われています。各国の宇宙機関では、デブリ除去システムの研究を進めていますが、日本においても、宇宙基本計画に基づき、民間企業を巻き込んだデブリ除去システムに関する基礎研究が実施されています。

宇宙デブリのでき方

 アメリカと旧ソ連との冷戦中に始まった宇宙開発レースを発端に、人類が宇宙へのアクセスを開始しました。それ以降、毎年衛星やロケットが軌道に投入され、その中の多くの物体が数十年間軌道に滞在し続けています。宇宙空間に現存する最古のものには、今から60年前の1958年にアメリカから打ち上げられた衛星があります。

 また、それらに加えて、衛星やロケットの事故や破壊実験によって、多量の破片、つまり「宇宙デブリ」が発生しています。これらの一部は、地球に落下(リエントリー)して地上にたどり着く前に燃え尽きてしまうか、デブリのサイズが大きいものだと、燃え尽きずにそのまま地上に落下してきます。しかし、リエントリーするデブリの数よりも、発生する数が上回っているため、増加の一途を辿っています。加えて、軌道上にあるデブリ同士の衝突によりデブリの数が増えてしまう自己増殖で発生する状態に陥ることも懸念されています。そのため、すでに存在しているデブリの除去を急ぐ必要があります。

宇宙デブリの危険な実態と実害
スペースシャトルエンデバー号にあるデブリの衝突痕(NASA提供)
スペースシャトルエンデバー号にあるデブリの衝突痕(NASA提供)

 衛星や国際宇宙ステーション(Internation Space Station 以下ISS)にデブリが衝突する頻度は、デブリが飛行する高度や傾斜角度、またどのような形(サイズ)をしているかといったことに関係してきます。例えば、10 cm 以上のデブリが衛星に衝突した場合には、その衛星は粉々に打ち砕され、1 cm 以上では致命的な不具合を起こし、1 mm 未満でも脆弱な機器に衝突すれば貫通し、時には内部発力による破裂を引き起こすことになります。(注1)

 実際に衛星にデブリが衝突したと確認されているものもありますが、故障の原因の可能性の1つとしてデブリ衝突が疑われるものや、デブリの軌道が急に変わり、衝突したと思われる例も多数あります。地上に持ち帰られた宇宙機の表面検査により、デブリの衝突痕が多数発見されています。(注2)

国際宇宙ステーションでの危機

 2011年に宇宙滞在をしたJAXAの古川聡宇宙飛士は、デブリがISSに330mのところまで迫る危機(注3)を経験しました。デブリの接近時には、地上からISSの軌道制御を行いますが、万が一に備え、ISSにドッキングしている緊急帰還用の宇宙船(ソユーズ)に避難し、ただ無事を祈るしかなかったそうです。こういったISSとデブリの衝突危機は2009年、2014年にも起きています。ISSがある低軌道(地球表面からの高度2,000km以下)上にはデブリが2700トンも存在し、ISSに衝突する場合、平均速度は秒速約7~8 kmにも到達すると考えられています。

宇宙デブリの対策

 デブリが発生する3大要因は、意図的破壊、運用終了後の推進系の爆発、不具合による破砕です。これらの原因毎にデブリ対策は異なってきます。例えば、衛星やロケットなどの破砕によって発生したデブリは、意図的な破壊行為の禁止や爆発事故の防止が挙げられます。役割を終えたり故障したりした宇宙機については、運用終了後に所定の期間内に有用な軌道から排除されるように管理することが望まれます。

 日欧米をはじめとする各国の宇宙機関では、宇宙機関間デブリ調整委員会(Inter-Agency Space Debris Coordination Committee 以下IADC)という国際的な協議の場を設け、「IADCスペース・デブリ低減ガイドライン」を作成しました。日本でもJAXA が、このガイドラインをベースにして、「スペースデブリ発生防止標準」を定めており、JAXAのプロジェクトとして開発された衛星、またJAXAのロケットから打ち上げられる大学等で開発された小型衛星なども含め、これに従った運営が行われています。(注4)

宇宙デブリの回収
網と銛、帆を駆使してデブリを除去する衛星(RemoveDEBRIS)(Copyrights: ESA–David Ducros, 2016)
網と銛、帆を駆使してデブリを除去する衛星(RemoveDEBRIS)(Copyrights: ESA–David Ducros, 2016)

 ヨーロッパの大手航空・宇宙企業Airbusを中心に、大学や多くの企業とタッグを組み、網と銛、帆でデブリ除去を試みる人工衛星「Remove DEBRIS」が開発されました。2018年4月には、Space Xのロケット「Falcon 9」で打ち上げられ、デブリ除去のための様々な装置の実証実験を行われています。また、2020年までにベンチャー企業のアストロスケール社がデブリ除去衛星実証機を打ち上げ予定です。他にも、JAXAや川崎重工によるデブリ除去事業や、中国によるレーザーを用いたデブリを細かく破砕する計画、またロシアでは巨大レーザー砲でデブリを撃ち落とす計画(注5)が考えられています。

宇宙エレベーターと宇宙デブリ

 地上から宇宙エレベータ―を建設した場合、ケーブルとなるカーボン・ナノチューブを宇宙空間に10万kmまで伸ばす必要があります。このケーブルやエレベーターのクライマーにデブリが衝突することが、エレベーター構築に立ちふさがる大きな課題の一つです。デブリ回避案として、ケーブルを含むエレベーターの移動を可能にする海上プラットフォームを採用するといったことなどが考えられています。

 しかし、事前にデブリの追跡ができない小さめのデブリに対しても対応する必要があります。その1つの対応案として、エレベーターの周囲をケーブルに沿って巨大な金属プレートを展開する方法が提案されています。(注6)

宇宙エレベータープロジェクトの紹介

 宇宙エレベーターは地上と宇宙空間を結ぶ簡便な輸送機関として近年注目され、国際的に研究されています。神奈川大学でも工学部の江上研究室を中心に、宇宙エレベータープロジェクト(サークル)が活発に研究開発や基礎技術の確立などを行っています。今回、展示スペースの一部を借りて、最近の活動内容を発表していますので、宇宙エレベーターの基礎や将来の夢も見学して下さい。

展示協力

  • 法政大学 理工学部 機械工学科 複合材料研究室 新井 和吉教授

  http://www.a.k.hosei.ac.jp/

  • 有限会社 オービタル・エンジニアリング

  http://www.orbital-e.co.jp/

  • 株式会社ALE

  http://star-ale.com/

参照元

(注1)加藤 明「スペースデブリの発生とその対策」第9回「宇宙環境シンポジウム」 講演論文集

(注2)「スペースデブリに関してよくある質問(FAQ)」JAXA公式サイト 

(注3)「古川宇宙飛行士長期滞在総括」JAXA公式サイト 

http://iss.jaxa.jp/iss/jaxa_exp/furukawa/result/

(注4)小塚 荘一郎,佐藤 雅彦「宇宙ビジネスのための宇宙法入門」有斐閣

(注5)“Russian space agency plans to incinerate space junk with powerful laser beam” RT 

https://www.rt.com/news/429291-laser-clear-space-junk/

(注6)Giorgi Lobzhanidze “SPACE ELEVATOR VERSUS SPACE DEBRIS” European Space Elevator Challenge

http://euspec.warr.de/download/guests2011/GiorgiLobzhanidze_Paper.pdf