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試行錯誤を楽しみながら、新たな挑戦を続けていく。時田 遊さん/セメダイン株式会社/福島県出身

試行錯誤を楽しみながら、新たな挑戦を続けていく。時田 遊さん/セメダイン株式会社/福島県出身

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給費生としての自覚が、研究生活の原動力に。

高校の授業で、最も好奇心をくすぐられた「化学」。その面白さに引き込まれ、いつしか化学技術者になる将来を思い描くようになりました。大学院進学を視野に入れていた私にとって、物質生命化学科に給費生として入学できたこと自体、とても恵まれていたのですが、さらに人生の大きな転機が待っていました。横澤勉先生との出会いです。
物理化学や無機化学など化学の基礎を広く学ぶ中で私の心をつかんだのは、横澤先生の授業で知った、複雑で奥深い有機化学の世界。まだまだ残されている未知の部分に挑戦したいという思いに火が付きました。「この先生の下で学びたい」と、3年次の研究室配属時には迷わず横澤研究室へ。それからは大学院を卒業するまで、基礎研究に没頭しました。横澤先生はポリエステルなど高分子の長さの制御方法を発見したパイオニアで世界的にも著名な先生です。そんな研究室での一番の学びは、ネガティブな結果が出ても常に前向きに、何か考えを見出そうとする横澤先生の研究姿勢でした。どんな結果に対しても笑顔で、「どうしてそうなったんだろうね?」「次はどうする?」と膝を突き合わせ、試行錯誤そのものを楽しみながら一緒に考えてくださる姿は、鮮明に脳裏に焼き付いています。数多くの実績を持つ研究者としての師でありながら、まるで無邪気な子どものように研究を楽しむ先生のおかげで、難題にも気負わずに挑むという、研究者としての資質を磨くことができました。
「給費生」であることも、研究に打ち込む原動力となりました。手厚い支援を受けながら学んでいる以上、「恩を返してから卒業したい」という意識は常に持っていました。少しでも神奈川大学に貢献しようと、大学院時代は国内外での学会に積極的に参加し、目標であった、より信頼性の高い英語での査読付き学術論文の発表も達成しました。
現在働いている接着剤業界という選択肢も、研究生活の中で見つけたものです。接着剤メーカーに勤務する卒業生から、仕事内容について伺う機会があり、自分の研究が実際の製品開発につながるという可能性を知れたことが進路を決めるきっかけになりました。基礎研究は横澤先生の下で充分にその神髄を味わったので、次は子どもの頃から工作などでなじみがあった接着剤の分野で、消費者に直結するモノづくりに挑戦することを決意しました。

大学時代と変わらない、「貢献したい」という思い。

私が担当しているのは、自動車製造に用いる接着剤の開発です。環境に優しいハイブリッド車や電気自動車には数百キログラムのバッテリーが搭載されていますが、燃費向上のためには車体を軽くしなくてはいけません。そこで近年、車体の一部を鉄から軽い金属やプラスチックに代替する動きが進んでおり、その異種材料の接合に接着剤のニーズがあります。私が所属するチームで開発しているのは、ただ接着するだけでなく、騒音や振動を吸収するといった機能性も持つ接着剤です。実用化するまでには、安全性、耐久性、使いやすさなど、検討すべき項目が膨大にあるため、これまでなかった新しい製品を作り出すことは決して簡単なことではありません。100年近く接着剤の開発・製造に取り組んできた当社に蓄積されているノウハウと、自分のアイデアを駆使しながら、より良い接着剤を作り上げるため、何度も実験と検証を繰り返す毎日です。自分が向き合っている接着剤が人の命を乗せる自動車の一部になるという重責は、モノづくりの先に「使う人がいる」ことを実感させてくれ、大きなやりがいにもなっています。
接着剤は、我々の手から離れた場所で初めて使用される場合がほとんどですが、ここに接着剤をつくる難しさがあります。使用される環境は顧客によって異なるため、納入予定の自動車工場を視察し、実際に接着剤を使用する現場で性能を最大限発揮できるよう、正確な計量と混合ができる機械を提案することも。社内での研究だけでなく、顧客の元に何度も足を運び、議論を重ねながら、求められている接着のレベルに近付けるために、一つずつ課題解決に努めています。
将来的な目標は2つあります。一つ目は自分が開発した接着剤を製品化し、顧客に使ってもらうこと。二つ目は、接着剤の社会的信頼を向上していくことです。残念ながら、接着剤はネジやボルトに比べて、確実に固定されていることが外から確認できないという懸念から、建物の鉄筋構造などにはあまり用いられていません。この接着剤業界全体が抱える課題を解決するために、接着剤を使うメリットや、信頼性を証明する事例づくりに挑戦していきたいと思っています。これには自分が専攻した化学以外に、あらゆる分野・業界の知識が不可欠なため、懸命に勉強している最中です。
大学時代の研究が簡単だったように思えるほど難解で奥深いこの仕事に、ワクワクしながら取り組めているのは、若手社員にも挑戦のチャンスを豊富に与えてくれる当社の社風に加え、「この会社に貢献したい」という思いが私を突き動かしているから。これからも新しい知識をどんどん吸収し、今よりもっと幅広く、人の命に関わるような場所にも接着剤が普及していく一助になっていきたいです。

※内容はすべて取材当時のものです。

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