プレスリリース

2017.01.27

光合成水素生産研究所と大阪市立大学らのグループが藻類の光合成を利用した水素の増産に成功しました

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大阪市立大学 複合先端研究機構の増川 一(ますかわ はじめ)特任准教授、神奈川大学 光合成水素生産研究所らのグループは、クリーンな次世代エネルギーとして期待される「水素」を生産する藍藻(シアノバクテリア)の遺伝子工学的改変を行い、水素生産を行う特別な細胞(異型細胞ヘテロシスト)を高頻度で形成させることで、強光条件[1]での受光面積あたりの水素の増産に成功しました。本内容は、下記の国際学術誌オンラインページに2017年1月7日に掲載されました。

雑誌名:Applied Microbiology and Biotechnology

論文名:Increased heterocyst frequency by patN disruption in Anabaena leads to enhanced photobiological hydrogen production at high light intensity and high cell density

著者:Hajime Masukawa (大阪市立大学)、Hidehiro Sakurai(神奈川大学光合成水素生産研究所)、Robert P. Hausinger(ミシガン州立大学)、Kazuhito Inoue(神奈川大学、同大学光合成水素生産研究所)

掲載URL:http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00253-016-8078-3

研究の背景

水素は燃料電池などのクリーンエネルギー源としての利用が期待されていますが、現在、水素の大半は天然ガスや石油といった化石燃料から生産されています。これに対し、藍藻は太陽光をエネルギー源として水を分解して水素と酸素を発生するので、再生可能でクリーンな次世代エネルギー源として期待されています。また、藍藻を始めとする微細藻類を利用したバイオ燃料は、水中で増殖し生産されるので、農地に適さない土地でも導入可能で、食糧生産と競合しないという長所があります。

藍藻は、他の微生物を利用したバイオ水素生産にはない特徴として、糖などの有機物がなくても水を原料とした水素生産が可能です。これまでに私たちの研究グループは、藍藻を遺伝子工学的に改良し、水素を高濃度(約30%)まで蓄積でき、酸素、窒素を含む気相下で長期間(約3週間)水素生産を持続でき、最適条件ではエネルギー変換効率1%以上を達成することに成功しています[2]。しかし、強光条件で変換効率が低下するという問題があり、水素生産性のさらなる向上が求められていました。

研究の内容

私たちは、藍藻の光合成を利用して、太陽光をエネルギー源、水を原料として水素を生産することを目指し、遺伝子工学的な改良研究を行っています。水素生産する酵素であるニトロゲナーゼは酸素に極めて弱いですが、糸状性の藍藻の一部は、ニトロゲナーゼを酸素から保護するための特別な細胞(異型細胞ヘテロシスト)を形成し、酸素を含む空気下でも水素生産できるユニークな特徴を持ちます。ヘテロシストは、通常10-20細胞に一つの割合で形成されますが、ヘテロシスト形成頻度を遺伝子工学的に増加させることで水素の増産を試みました。

先行研究[3]を基にして、ヘテロシスト頻度を約2倍増加させたところ、光を集めるアンテナとして働く色素の含有量が減少したことで、細胞あたりが受け取れる光が減少しました。その結果、高密度培養で、受光面積当たりの水素生産性[4]が約1.7倍向上し、さらに強光による阻害を受けにくくなることを明らかにしました。

補足説明

[1]強光条件:藍藻は一般的に弱光に適応しており、本研究で用いた藍藻では、真夏の屋外の太陽光の1/20以下の光強度(100 μmol photons/m2/s PAR)では比較的高い水素生産性を示す。しかし、それより強い光環境になると、光合成が強光により阻害され、水素生産性は大幅に低下する。

[2]Masukawa et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 58, 618-624 (2002); Yoshino et al., Mar. Biotechnol. 9, 101-112 (2007); Masukawa et al., Appl. Environ. Microbiol. 76, 6741-6750 (2010); Masukawa et al., Int. J. Hydrogen Energ. 39, 19444-19451 (2014)

[3]Risser et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 109, 15342-15347 (2012)

[4]受光面積当たりの水素生産性:太陽光を利用し、光合成微生物を利用して有用物質を大量生産するためには、受光面積当たりの生産性の向上が必要である。

 

期待される効果と今後の展開

藍藻のヘテロシストを高頻度化することで、高密度培養での光エネルギー利用効率が向上するだけでなく、屋外の強い太陽光の下でバイオ燃料生産を効率よく行うための新しい技術になるものと期待されます。引き続き、高効率な水素生産能を持つ藍藻の作出に取り組んでいく予定です。

本研究について

本研究は、大阪市立大学、神奈川大学、ミシガン州立大学との共同研究で、下記の支援を受けて実施されました。

  • 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)/個人型研究(さきがけ)研究領域:「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」(研究総括:松永是 東京農工大学 学長)
  • DOE Great Lakes Bioenergy Research Center (GLBRC)
  • 文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究 「人工光合成」
  • 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業

 

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

<研究内容に関すること>
大阪市立大学 複合先端研究機構 増川 一(ますかわ はじめ)
TEL:06-6605-3621
E-mail:masukawa@ocarina.osaka-cu.ac.jp

<報道に関すること>
大阪市立大学 広報室 三苫(みとま)
TEL:06-6605-3410
E-mail:t-koho@ado.osaka-cu.ac.jp
WEB:http://www.osaka-cu.ac.jp/ja

神奈川大学 平塚研究支援課 木内(きうち)
TEL:0463-59-4111(代)
E-mail:kenkyu-hshien@kanagawa-u.ac.jp