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館内での展示

2011年7月11日

<展示>マーブル紙に見る書籍の美

 図書館の地下書庫に潜り、背表紙を眺めながら逍遥する。本も時代を経るとある種の風格を帯びる様で、何となく引き付けられるような、あなたを呼び止めるような、手に取ることを求めてくるような書物が目に留まる。いやおうなく高まる期待感を抑えつつ表紙をめくる。あなたに少しばかりの幸運があれば、そこには目が眩むような幾何学的な幻惑的な、時に爆発的な文様が現れ、ひとしきり異次元に意識が吹き飛ぶ。多くの時代、人から人へ手渡し手渡しに運ばれてくる間、すっかり黄ばんだページやホコリ臭い匂いとはあまりに対照的な生まれ立てのような鮮烈な色合。あなたは何を感じるだろう。美しいと思うだろうか、グロテスクだと思うだろうか、危ういと感じるだろうか。暗い書庫の中であなたは戦慄(旋律)を覚えることだろう。その文様はたぶんマーブル模様。

 ディドロ、ダランベールの『百科全書』の「マーブル紙職人」の項目によれば「マーブル紙には大変多くの用途があるが、おもには仮綴本の表紙や製本された本の見返しに使われる。製本職人がもっとも多く利用する」と書かれている。フランスでは17世紀から18世紀にかけて革装本の見返しに多く使われるようになった。出版点数の増加により、見返しまで含めて全革で作成してはコスト高となる。そこで、革の代用としてマーブル紙の使用が広まる。現代のようにカラー印刷の技術がなかった時代には、ヨーロッパ各地でマーブル職人が腕を振るっていた。何処の国でも職人達は、名もなく、多くはない見返りを得ながら。

 マーブル紙の作成は一定のパターンはあるものの、どうしても偶然に左右される。1枚1枚作られるために、似たような模様であっても全く同じものは存在しない。それは紙と水という本来ならば決して出会うことの許されない者同士が、絵の具の膜を挟んで触れ合った一瞬の芸術。

 小石模様、櫛目模様、矢羽模様。これらをくるくる回して作る渦巻模様。櫛目模様から花束模様や孔雀模様へのメクルメク生成。生物の細胞を想起させる静脈模様。カーテンのひだのように蠢く陰影模様。何を睨むか虎目模様。

 今回の展示では神奈川大学図書館が所蔵する膨大な書籍の中から、選りすぐりのマーブル紙に身を包んだ洋書をご覧いただきます。どれも100年~150年以上前に出版された逸品ぞろいです。

展示の様子


1 展示コーナー正面。『百科全書』のマーブル紙職人図で作成プロセスを解説


2 多種多様なマーブル模様のパネル展示。色彩の豊かさと大胆なデザインは今なお新鮮


3 展示コーナー全景


4 陰影模様と静脈模様


5 様々な技法を組み合わせた豪華なマーブル模様


6 花束模様と孔雀模様


7 櫛目模様


8 展示品の中で最大のマーブル紙(櫛目模様)


9 ゼブラ模様と虎目模様。虎目は希少品


10 櫛目模様を施された書籍の数々


11 木の根模様マーブル。革の上に施されたマーブル技法


12 神奈川大学所蔵の『百科全書』 部分


13 『百科全書』より<マーブル紙職人>の図


14 『百科全書』より<マーブル紙職人>の図


15 ゼブラ模様


16 今回の展示では書籍に貼られた蔵書票も見所の一つ


17 書籍の小口に施されたマーブル。当時の職人の技術の高さに脱帽


18 渦巻き模様


19 矢羽模様


20 虎目模様


21 孔雀模様


22 花束模様


23 見返しと小口に施されたマーブル模様の一体感は見事の一言。


24 ルーペを覗いてみて下さい。どこまでも広がる無限の世界が見えてきます。


25 貴重資料の複刻版にもマーブル紙が使われています。中には現代のマーブル職人の手作りの作品もあります。ご自由に手にとってご覧ください。


26 特製マーブル栞を配布中です。記念にお持ち帰りください。無くなり次第終了です。

目録

参考情報

展示期間

2011年7月1日~9月末(予定)

会場

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